託す

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 木下は外で監視の任に就いていた。昨日話しかけてきたのは室谷(むろや)少佐という。木下にとっては因縁の相手だ。ここへ派遣される前の訓練期間中、木下を目の敵にしていびってきたのは紛れもないこの人であった。何の因果か彼もこの島へ派遣されていた。そしてさらに悪いことに、本部へ集まって来た兵を整理すると、まともに動ける者の中で、彼の階級が最も高いという。指揮権限を得ると、室谷は真っ先に木下に監視の命令を下した。  防衛本部は島の中心の林の中にある。上空から見つかりにくいよう、木々でカモフラージュしてある。ようやく交代時間が訪れると、木下はプレハブの兵舎へと戻って行った。  中へ入ると全員が直立不動の姿勢で敬礼をしていた。その前には室谷がまるで総帥気取りのように、両手でサーベルを床について立っている。どうやら木下がいないうちに今後の作戦が伝達されたようだ。木下はのけ者にされたような不快感を抱いたが、室谷の目を避けようと端に参列した。しかし木下の意に反して、室谷は鋭く木下を()めつけた。皆も振り返り、視線が一斉に木下に注がれる。  空気が一気に張り詰めたが、室谷はやがて声を発した。 「今しがた重要な軍令を下した。その中の最も重要な任務をお前に託す」  室谷はそれだけ言うと、再び静寂が辺りを包んだ。木下はただ口をポカンと開けるしかなかった。
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