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海岸にたどり着くと、木下はその場にへたり込んだ。死線をかいくぐるとはまさにこのことだ。どうやら九死に一生の経験を経ると、人間は腰を抜かすらしい。
指令によると、この先に大隊が上陸しているという。ここまで来れば安全だ。そしてたしかに日本軍のものと思われる船も見えた。
しかしここで木下はある異変に気付いた。船はあるにはあるが、その船はせいぜい駆逐艦クラスにしか見えない。さらに上陸しているはずの大隊の面影もない。木下は一気に妙な胸騒ぎを覚えた。どうすればいいのか分からずへたり込んでいると、下げてきた鞄に手が触れた。昨晩、目的地へ向かうとともに、この鞄を持たされた。報告書が入っているという。
再び違和感が木下を襲った。昨日はがむしゃらに駆けてきたため気づかなかったが、この鞄は報告書が入っているにしてはやけに重い。手を震わせながら、木下は中身を確認した。
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