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 僕は実家へ行き、仏壇の前に正座した。遺影に映るふくよかでむすっとした父の顔すらまともに見られなかった。こんな写真を遺影に選ばなければいけなかったのか・・・しかし、まるで媚びない父らしい写真だ。むしろ笑顔だったらぞっとする。それこそ見られない。 「電池式の線香を付けてするのよ」  いやはや電池式とは・・・これも形骸化、簡略化の弊害かと僕は呆れつつスイッチを入れた。ほんのり赤く棒の先が灯った。香りがしないのは言うに及ばず電子パイポのように煙も出ない。何という味気無さ・・・  僕はお参りの仕方なんか知らないから只、合掌して目を瞑り冥福を祈った。
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