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5.その後の顛末
その後、検察による「佐藤千香子殺害未遂事件」の捜査は順調に進んだ。
犯人の少年は、千香子のクラスメイトであり、ストーカーだった。
以前から千香子の早寝の習慣を狙って、寝込みを襲おうと計画していたらしい。
が、思いの外強い抵抗にあって、持ち歩いていたナイフで刺してしまったそうだ。
事件の悪質性から、検察では少年犯罪ではなく刑事事件として扱う方針が固まりつつある、とのことだった。
佐藤千香子は奇跡的に回復し、今は父親の手厚い看病のもと、リハビリに励んでいるという。
酒浸りだった父親も流石に反省したのか、今は酒を控え、娘を献身的に支えているそうだ。
「――ってことらしいぞ。まあ、一応はめでたしめでたし、だな?」
「千香子さん、後遺症が残らないといいわね……」
則子が「推理」を披露してからしばらくの後、ボロアパートでいつものように夕飯を共にする安藤父娘の姿があった。
「しっかし驚いたぞ。被害者の証言の殆どが、オメェの推理とピタリと合致しやがるんだもんな! まさか自分の娘に名探偵の素質があるだなんて、思わなかったぞ」
「やめてよ、お父さん。あんなの推理じゃないわよ」
父親の言葉に少し照れながら、則子が笑う。
「……推理じゃなかったら、何だって言うんだ?」
「ただ、男やもめの父親を持つ年頃の娘の気持ちになって考えてみただけよ」
「ふ~ん、年頃の娘、ねぇ……。オメェ、今年で幾つになるっけ?」
「歳の話は言わないで!」
無神経に則子の地雷を踏んだことで、安藤父娘はその後、三十分に渡って口喧嘩を続けるのだった。
――ボロアパートの他の住人たちは、その騒音を煩わしく思いつつも、「ケンカするほど仲が良い」と、どこかほのぼのした気持ちにもなったとか、ならなかったとか。
(了)
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