4.娘の推理

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 安藤の言葉に、則子は心底「呆れた」とでも言いたげな表情を浮かべながら、こう答えた。 「まずね、佐藤八郎さんは娘さんに黙ってお酒を飲みに行ってたと思うの。彼女が寝てから、そうっとね。玄関の鍵は多分、その時にかけ忘れたんだわ。携帯電話を置いていったのは、きっと移動履歴を残さない為ね」 「どういうことだ?」 「これは推測になっちゃうけど、八郎さんはお医者さんにお酒を止められてたんじゃないかしら? それでもお酒をやめられなくて……携帯電話のGPSで、移動履歴を管理されていたんじゃないかな? お酒を飲みに行ったら分かるように。家に携帯を置いていったのは、バレないようにする為なんじゃない?」 「……なるほど、筋は通ってる。それで?」  娘の推理力と妄想力の逞しさに舌を巻きつつ、安藤が先を促す。 「大声でケンカしてたって言うのも、きっとお酒絡みね。とにかく……事件の夜も八郎さんは、娘さんに気付かれないように家を出た。つまり、娘さんは? その状態で犯人に襲われたら、どうすると思う?」 「……あっ!?」  そこに至って、ようやく安藤は則子の言わんとするところを察した。  それは――。 「分かったみたいね? そう、ナイフで刺されて息も絶え絶えな状態でも、佐藤千香子さんは玄関から外まで逃げて、近所に助けを求めた。それで、運よく駆け付けてくれた近所の人に、こう言おうとしたのよ『お父さんがまだ家にいる。犯人もまだ家にいる。お父さんを助けて』って。残念ながら、途中で気を失っちゃったみたいだけど――」
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