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事の次第を知り、心配した両親や兄らは、独身がいけないのだと結婚させることにした。
芝の里の庄司の娘である富子が、内裏の采女として働いていたが、ちょうど暇をもらい戻ってくるというので、そこに婿として迎え入れられた。
滞りなく初夜は進んだが、二日目の夜のことだった。
閨で突然楝姫の声が響き渡る。
「古い契りを忘れてこんなつまらない女を愛するのですか。あなた以上にこの女が憎うございます。なぜ私を遠ざけようとなさるのです。あれほど愛し合った仲ではございませぬか。何か問題がございましたか。ご不便をおかけしましたか。何がいけなかったのでしょう。蛇がいけませぬか。私にはさっぱりわかりません。何も不自由なかったのに、蛇とわかったとたんこのような仕打ちをなさるのですか」
豊雄はあまりのことに腰を抜かす。さらに屏風の裏からは童が出てきて追い打ちをかけた。
「旦那様、何を恐れているのですか。契りを交わした仲ではございませぬか。あんなに愛し合っていたではありませんか。誰が見ても仲睦まじき夫婦でした」
二人は交互に涙ながらに訴えかけてくる。富子の意識に楝姫の意識が乗り移ったらしい。
「蛇がそんなにお嫌いでしたら、二度と蛇にはなりません。尾も太刀で断ち切りましょう。あなた様が私を受け入れて下さいますなら、何でもいたします」
楝姫は嘘を言っているようには見えなかった。またも一瞬心が揺れるが、この可憐な桜色の唇をした女性が蛇だと思うと、どうしても受け入れることができない。
怖い。こんなに美しく、賢く、品があり非の打ち所がないのに怖くてたまらない。蛇でなければ……どうしてもそう考えずにはいられなかった。
「どうしたのですか。何を恐れているのでしょう。食べられるとでも思っているのですか。どうして愛するものを食べることができましょうか」
その声色が徐々に太く低くなっていくので、豊雄は恐ろしくなって、両耳を塞ぎうつ伏せになったまま尻を持ち上げる。お尻はふるふると小動物のように震えたまま、二人の言葉を聞かないようにしているうちに何とか夜が明けた。
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