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27/30 どちらかの誕生日に
「どっちかの誕生日、旅行したいな、一緒に」
また面倒なことを言い出した、とアヤは思った。
「リョウの誕生日は連休だし、俺の誕生日には別に旅行したくない」
連休イコール、アヤの仕事が忙しい時。そしてアヤの誕生日にアヤが嫌なことをする筋合いはない、というのが言い分。
「そう言うとは思とったけどさあ……」
口を尖らせていじけてみせる。嘘ではなかった。予想通りの返しと言える。けれど、ほんの少し、もしかしたら、なんて期待してしまっていた。
「じゃあ何やったらしてくれる?俺の誕生祝い総合プロデュースしてよ」
「は?」
さらに面倒なことになってしまった、アヤは批難のため息を吐く。
「お客さんから頼まれたと思って、さ。『彼女の誕生日なんです~何かサプライズしかけたいんですけど~』みたいな」
「言ってる時点でサプライズじゃないし。それに人に提案するのと自分でやるのとは違うだろ」
そう返しても無言で抗議するリョウに、アヤはやれやれと諦めの境地で考え始めた。
考えたところで、引き出しがない。持っているものが圧倒的に少ない。そういったものに必要を感じず、引き出しに入れてこなかったから。
それに、してもらったこともないし。
貧困な発想力で僅かに思いつくものは、やりたくないことだったり。
「連休の間中、うちに来る?」
「それ普段と変わらんやん」
「じゃホテル泊まる?スイートでも取ろうか?」
「一人で?」
アヤのため息は深くなるばかり。ここは素直に従って旅行しておいた方が楽なのかも、なんて思い始める。
「当日は無理だけど、大阪、行こうか」
「えっ?」
「リョウん家」
「い、いや、うち来たってほら、家族おるし」
「だからだけど」
「え、そ、そうなん?でもほら、俺の家なんか来たってやることないしつまらんし、さあ」
「まだ、話してないんだ」
「……」
立場はすっかり形勢逆転。余計なことを言い出さなければ良かった、と目を泳がせながらリョウは少し後悔している。
リョウはまだアヤのことを、いや、自身が同性愛者であることも家族に話していない。割とオープンな仲良し家族ではあるが、さすがにこればかりは軽く伝えられる話でもなく。そしてそういった類の人間を快く思っていない節があちこちから見受けられることも、言い出せない原因の一つだった。
完全に会話は途切れたきりになってしまったが、アヤは今何を思っているのだろう。普段はアヤに要求ばかり突きつけておきながら、と自分を恥じた。
指輪の交換や将来を誓い合うことまでしておいて、このまま避けて通れる話ではない。
そろそろ腹を括らないと、とリョウは気を引き締めた。
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