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30/30 HOTなことをする【R18】
「わぁ~、今日も暑いなあ」
車を降りると外気の湿気の多さを思い出す。車内はエアコンを効かせていたのでさらっとひんやり快適だったので、夜でもこんなに湿気と気温が高いことを忘れていた。駐車場からエレベーターまで移動するほんの数分の間にも、すぐにじっとりと汗ばんでくる。
アヤが仕事上がりに、同じく仕事後大阪からやってきたリョウを駅で拾い、二人でアヤの部屋へ。遠距離カップルである二人の、いつものデートコース。
リョウはいったん帰宅して着替えてから来るが、アヤは職場から直接駅へ迎えに行くため、仕事の格好のまま。黒髪をオールバックに固め、スーツにネクタイ。限られた人にしか見ることの出来ないオフの隙だらけの姿はもちろん、この姿もとても好きだ、とリョウは未だに見蕩れる。
慣れた手つきで素早くオートロックを開錠し、エレベーターに乗り込み、降りる。
刻一刻と、そのときが近づく。
やっと部屋に着いた。
入って、鍵をかけるやいなや、リョウが自分の首筋を指しながら言う。
「なあなあ、ここどしたん?」
「何が」
「なんかぷつってなってる」
アヤも同じ場所を触ってみた。耳の裏の少し下に、言われた通り小さくぷつっと突起ができている。
「痛くもかゆくもないし、気づかなかった」
「ほんま?だいじょぶなん?虫刺されとかちゃうんや?」
リョウもアヤの発疹に恐る恐る触れる。
「うん、何ともないよ」
そう言っているのに、リョウはその突起を触るのをやめないし、だんだんと距離を詰めてこられている気がする。
「近っ……もういいだろ、早く靴脱げば」
「ずっと我慢しててん」
「何を」
「このことアヤに教えるの」
「は?」
「絶対触りたなるから、こうやって」
指先でつんつんと触れていただけの指はやがて別の意思を伴った動きに変わってゆく。指の腹がゆっくりと、突起以外の周辺も這い回りだした。一本だった指は今は四本に増えた。
「早く部屋に入らせろ」
暑い。スーツを着たままエアコンもついていない部屋、何もしなくても汗が噴きだす。さっさとこの暑苦しい仕事着を脱ぎ捨てて、エアコンのリモコンを――
そこでアヤの思考は停止してしまった。顎を取られて強引に顔をリョウの方に向かされ、いきなり濃厚なキスをされたから。狂おしいほどの獰猛さを持った唇が離れた後に見せるリョウの顔には、今ここでお前を抱くとはっきり書いてある。
「するのは構わないけど、ベッド行ってから……」
「あかん」
「せめてシャワー」
「嫌や」
「エアコンだけでも」
「無理。長いことお預けくらって、もう一秒も待たれへんの」
もう喋らせないとばかりに、かぶりつくように唇を塞がれた。
互いの肌がジメジメと湿気ていて、酷く不快だ。何もしないうちからこれでは、この先が思いやられる。しかもアヤは朝から仕事を終えた後で、皮膚には汗に埃に皮脂にとさまざまな汚れが付着している。
今度は件の突起に口づけるリョウ。耳の後ろ、といえば、加齢臭がするとよく話題になる場所。お風呂でも特によく洗いなさいと言われる場所だ。しかもシャワーも浴びていないこんな状況で。
「そこ、やめろ」
「なんで?」
「臭うだろ」
「うん……」
アヤの思惑とは裏腹に、リョウはうっとりとしている。
「いい匂い……この匂い、好き」
「……俺のこといつも言うけど、リョウだって充分変態だな」
呆れるように言い放ってやると、リョウはにんまりとして答える。
「お嫌いですか?」
「お好きです」
当たり前のようにアヤが返す。もはやお決まりのやりとりに、二人は笑った。
唇で軽く触れるだけだったのが、ついには舌でべろりと舐め上げられた。
「汚いって」
それでもやはり、と抵抗しようとするが、リョウにはそれを許す気がなさそうだ。
「汚くなんかないって。もっと嗅がせて、味わわせて」
五感すべてでアヤを感じたい。鼻で、舌で、それから――
「痕、つけてもいい?」
耳の後ろ、髪では隠れないが、耳の陰になっていて、よっぽど見ようとしないと見えないところ。
「……いいよ」
誰かに見られたところで困るわけでもない。アヤはお伺いを承諾した。
きつく吸い上げられると、思わず吐息が漏れてしまう。リョウはつけた痕とアヤの悩ましい吐息で、嗅覚と味覚に続いて視覚と聴覚でも感じることができた。
でも、もっとだ。こんなのじゃ足りない。
互いに相手の頭を抱え込んで、何度も何度も角度を変えて、互いの舌が何度も上下逆転しながら絡み合う。そんな中、ふたりの汗の量もたちまち増してゆく。滑りが悪くベトベトしていた状態から、すっかりびしょびしょと呼べる域にまで達してしまい、逆に互いの肌の滑りが良くなった。
「暑い、脱がせて」
アヤがうつろな目で訴える。恍惚としたそれか、はたまた暑さにやられて朦朧としているのか。かっちりとしたフォーマルな姿のまま、禁欲的なスーツ姿のまま、乱していくのが楽しみだったのだが、これ以上はアヤの体が危ないかもしれない。リョウはしぶしぶ、スーツの上着だけ脱がしてやった。こもっていた熱が一斉に、もわりと解放される。真っ白なワイシャツは大量の汗のせいで、体にぴったりと張り付いている。そのさまは言うまでもなく扇情的で、絶対にこのシャツだけは脱がすまい、と強く思うリョウだった。
アヤの股間にリョウの膝が滑り込めば、アヤの熱くなった中心に腿が触れる。そのまま深く割り入っていけば、ふたつの熱くなったものどうしが重なる形となった。
膝を上下させて擦り合わせると、互いの開きっぱなしになった口から熱い熱い呼気が漏れた。
「は……気持ちいい、ね……」
アヤにねっとりと見つめながらそう言われて、リョウは『綺麗な姿のまま美味しく頂く』というハイレベルな目標を早々に放棄した。
かっちり固められた髪に指を梳き入れてぐちゃぐちゃに乱し、さっきから邪魔だった眼鏡も外してその辺に捨て置いた。
「ん、もう、アヤのあほっ」
目標達成できなかったことをアヤに責任転嫁し、リョウは荒々しくアヤを責め立てる。シャツの上からでもくっきりと形がわかるようになった乳首を指で弾いたり、押しつぶすように捏ねれば、それまでまるで呻いているだけだったアヤの声に変化が見られ始めた。
「ほんまにここ、好きやな」
相も変わらず乳首を苛めながら言うと、抗議にもならない熱のこもった抗議の声が返ってきた。
「……誰のせいだよ……」
「ん、俺」
満足そうに笑ってさらに責めの手を激しくすると、一層アヤの声がはしたないものになる。
「外、聞こえるんやない?」
ドア一枚隔てた向こうは廊下、つまりマンションの共有スペースである。アヤの部屋は端ではないので人も通る。ぎくり、とした顔も可愛いな、とリョウは思う。
可能な限りからだとからだを密着させ、舌を絡ませる。もうどっちの汗かわからないぐらいに汗みずくになってしまった。このままドロドロに溶けてひとつになってしまえたらいいのに。
痛いぐらいにじんじんしている下半身も、もう限界。きっとこの硬さからして、アヤのだって同じはず。
どちらももぞもぞと擦り合う、その速度が上がってきているのがなによりの証拠。普段のぬるぬると直に手で触られるのとは違う、布越しのざらついた感触がまたイレギュラーな快感をもたらすのだった。
「もう、出したい」
さんざんあちこち責められていたからか、先に音を上げたのは珍しくアヤの方。
「このままいってまう……?」
動きを止めずにリョウが答える。わずかに驚きを見せたアヤもまた、動きは止まらない。
「どうせやったらとことん汚くなろっか、ふたりで」
言いながら耳元に熱い吐息を吹きかけると、アヤは眉根を寄せて身を縮めた。俯いた拍子に、鼻先から、顎から、ぼたぼたと汗が滴り落ちる。
「で、も、これじゃ、いけない」
布越しの刺激は確かに新鮮な快感ではあるものの、絶頂まで導いてくれるかと言うとそうではない。もう少し、あと少しで届きそうな頂きにあと一歩手が届かない、そんな状態にますますおかしくなりそうだ。そしてそれはリョウだって同じだった。
「……今日は、抱いていい?」
例の一件以降初の手合わせ、お伺いも緊張する。目に汗が入って滲みる。
「そんなのどっちでもいい、だから、」
切なげに訴えながらも、アヤはリョウの額の汗を拭ってやる。驚いたのはリョウだ。
「どっちでも、って」
「もうどっちでもいいって、早く」
口を動かしながら、手も自らのベルトを外しにかかっている。余裕なく切羽詰まった様子のアヤを見ていると、リョウも一気に情欲を掻き立てられる。
「そんなに欲しがってくれるん、俺のこと」
「長い間お預けくらって待ちきれないのは、自分だけだと思ってるの?」
つべこべ言わずに早くしろ、とでも思っているのだろう、少し煩わしそうにアヤが言う。そんなうちにもスラックスはすとんと床に落ち、くっきりと染みが着いた下着がお目見えした。
着たままでどこまでやれるか、も今夜の課題ではあったが、もはやここまで。本番にもつれ込むならそれはそれで諸々の準備だって必要だし、いい加減暑さに弱いアヤの体も心配だ。
「じゃあ、お風呂で汗きれいに流して、エアコンもつけて、しよ」
ついには髪からも汗が落ちる。ふたりとも既に風呂上がりのようだ。
気持ちの上では一秒たりとも待てないふたりのお預けは、あともう少しだけ続く。
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