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1/30 手をつなぐ
「手、つないでも?」
アヤは手を繋ごうとする時、未だにお伺いを立ててくる。
もう何年付き合ってると思てんねん。
手ぇ繋ぐ以上のことも、もう何回やっとんねん。
でも、そのお伺いの声はいつもすっごい礼儀正しくて控えめで、あの頃を思いだすねん。
出会った時の、
執事みたいな、
スーパーマンみたいな、
そう、俺が心奪われてしまった、あの日の……
「わっ」
恋が始まった日を思い出してニヤニヤしてたら、乱暴に力強く手をひっつかまれた。
おいおい、さっきの紳士はどこ行ってん?
返事せんかったんは悪かったけど。
一応謝らな、と思ってアヤの顔見たら……
なんやその不安そうな顔。
さっきの手の動きとこの表情、一致してませんけど?
返事せんかったんは悪かったって。
「もちろん。……返事せんかってごめんな」
同じぐらいの力で握り返しながら、もう、もう、わろてまう。
ニヤニヤが抑えきれへん。
何考えてんのか全くわからんかったアヤのこと、だいぶわかるようになってきたのが。
俺がアヤにいろんな影響与えられてるんかなってことが。
振り回されてるのは、俺だけじゃないってことが。
「嬉しい。アヤ大好き」
いくらでも、いくらでも、言うてまうねん。
またかよって顔、せんといて。
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