64人が本棚に入れています
本棚に追加
それからの悠真には、特訓が待っていた。
時には部活が終了してからも、居残りで先輩の指導を受けねばならなかった。
『夕鶴異聞』は、ラストに鶴の化身であるつうが、死んでしまうという悲しいストーリーだ。
冷たくなったつうの亡骸を抱き、与ひょうが涙を流し慟哭するシーンで幕が下りる。
「つう……、つうッ!」
「いや、違う。そうじゃない、吉行くん」
横たわった未緒にすがって呻く悠真に、演出担当の先輩がやけに冷静にストップをかける。
「ただ大声を出せばいい、ってもんじゃないんだ。もっと、情感を込めて」
「はい……」
もう何度、同じことを繰り返しただろう。
疲れ果てた悠真に、未緒が助け舟を出してきた。
「今日はもう、遅いから。続きはまた明日にしよう」
「すみません……」
せっかくの華やかな主役が、悠真には重荷になって来ていた。
最初のコメントを投稿しよう!