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1年間、俺達はお互い好意をもって接してきた。
今日は思い出の日にしたい。
彼女もそう願っているはずだ。
彼女は俺の視線に気づいている。
時々目があって、口の端を上げる程度に微笑む。
俺は我慢ができなくなって、人の群れから離れる。
彼女が俺の行動しっかり見ていることを信じて。
そして彼女が追いかけて来てくれることを願って。
人気のない森の中に入る。
キャンプファイヤーの炎が作る明るさが見える範囲だから、真っ暗ではない。
木の下で待っていると、小枝をパキパキと踏んで誰かが近づいてくる。
由宇だ。
何も言わずゆっくりと俺に近づいてくる。
その美しさに呼吸が乱れる。
魔法にかかったかのように彼女から視線を外せず、動けない。
彼女はゆっくりと近づいてきて、そのままそっと顔を近づけてくる。
俺は目をつぶる。
彼女の唇が俺の唇に触れる。
ほんの数秒。
いちごキャンディーのような匂いがして、それがふうっと遠ざかっていった。
ゆっくり目を開けた俺は、突然訪れた幸福に呆然とし、彼女のうしろ姿を見送ることしかできない。
しかし夢は突然不幸へと導かれる。
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