1人が本棚に入れています
本棚に追加
キャンプファイアーに戻ると、いつのまにか彼女のクラスの出し物の番で彼女も楽しそうに歌っている。
さっき俺にキスをした彼女があそこにいる。
そう思っただけで俺は幸福感と優越感に満たされていた。
そこまでは最高潮だった。
近くにクラスの友人がやってきて囁くまでは--。
「右から2番目の髪の長い子いるじゃん」
由宇のことだ。
俺の由宇だ。
こいつも憧れてるのか。
悪いな彼女は--。
「あいつ男なんだってさ」
は?
何を言ってるんだ、こいつは。
ああ、「オトコオンナ」ってやつか。そんなに男っぽいキャラとは思えないけど。
「あんな格好してるけど本当は男なんだって。クラスじゃみんな知ってるらしいけど、なんか口止めされたらしい。俺ら教室離れてるし、あの子知らなかったじゃん。去年転入してきたらしいぜ」
嘘だ。
意味が分からない。
彼女は女だ。
どう考えても女だ。
顔も髪も声も香りだって女じゃないか。
男にあんな目、できるか?
「性同一性障害ってやつなんだって。かわいいのにな」
突然突きつけられた現実が、それまでの甘い思い出を奪うように消し去っていく。
頭の中が空っぽになって、何も言葉を返せない。
温かな感情がみるみるうちに冷たく凍っていく。
現実は夢となって何度も俺を襲う。
泣きたくなるような失恋を味わい、そして目が覚めるのだ 。
最初のコメントを投稿しよう!