1人が本棚に入れています
本棚に追加
「けーん。賢ちゃーん。いつまで寝てんのよ~」
目を開けると目の前に由宇の顔がある。
「てっめー近いんだよ!」
と、のけぞって由宇を避ける。
キスでもされたら大変だ。
「ふん。起こしてあげたのに。次、理科室に移動だって」
中学2年になって同じクラスになった。
教室でもやはり由宇は目立つ存在だ。
みんな真実を知っているけど、由宇は全く気にしていない。
それに認めたくないが、由宇の魅力は増す一方だった。
セーラー服姿の由宇はミニスカートをパンチラギリギリでひる返し、去っていった。
ドアから消える瞬間まで、後ろ姿に見入ってしまう自分に嫌気がさす。
小6以来何度も繰り返し見るあの夢。
夢はすべて現実だった。
あの夜俺は真実を知り、由宇に確かめた。
暗い森の中で。
由宇はくすっと笑って言ったのだ。
「そうよ。だから何? そんなんで嫌になっちゃうなんて小さい男ね」
そう言って去っていった彼女の後ろ姿が、さっきの後ろ姿とかぶる。
かっこいいくらい堂々としていた。
でも俺は由宇とそれ以上恋愛することはできなかった。
無邪気なキス。
俺のファーストキス。
可愛い男の子との。
忘れてしまいたい。
でも悲しいことに記憶は消去できない。
嫌いになることもできない。
俺は真実を知ってからも、なんだかんだ由宇に心を振り回されているのだ。
「くそっ」と言って、俺は理科の教科書をカバンから取り出した。
最初のコメントを投稿しよう!