恋する学習塾

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俺は国立の小学校から中高一貫の私立男子校を受験し、難なく合格した。 中2になってからも俺の成績は下がることはなかった。 5段階評価はオール5。 主要5科目は問題ないのだが、なぜか芸術的センスを持ち合わせていない 。 小学校のクリスマス会などでは、俺が何を書いたかを当てるというゲームで大いに盛り上がったほどだ。 その歌バージョンもあったっけ。 とにかく美術と音楽は実技点がひどい。 小学校からサッカーをやっていたけれど、先月足を怪我してやめてしまった。 母親は暇になった俺に塾に入ることを提案した。 この穏やかな生活に変化をもたらすのもいいかもしれない、と思った。 塾に通うならなるべく少人数制の個人塾がいいとだけ告げた。 後日、母親から二つのうちから選べと、塾のパンフレットを渡された。 やたら主張の強いフォントで書かれた『蒲生塾』の文字。 塾名の下には『スーパー学習塾』 と書かれている。 なんだ? スーパー学習塾って。 もう一つの塾は、『エリート養成塾 ラ・パシオン』という気取った名前だった。 本能的にイラッとくる。 加えてパンフレットに写っているやつらの顔が気に食わない。 母親もそれには同意してくれた。 「完全に調子乗ってるわね」 「だよな。特にこいつ。絶対勉強しか能がないつまんない男だよ」 指を指したその男は、腕を組み、顎を斜め上にあげ、にやっと不敵な笑みを浮かべていた。 気に入らない。 もうひとつの塾に入ってこいつを全国模試で負かしてやるか。 そんなわけで、俺は蒲生塾の入塾テストを受けたのだ。
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