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1、2、3、4… と黒い外壁のビルを見上げながら階数を数える。
蒲生塾は5階建てだった。鏡面仕上げの外観は強気だし、名前に負けていない。
オートロックで部外者が侵入できないようになっている。
来客者用の電話で受付を呼んだ。
カメラで見ていたらしく、数分で黒いスーツ姿の女性が現れた。
すらっとした秘書タイプで、セミロングのボブにメガネがかっこいい。
「こんばんは。成瀬雪成さんですね。事務の畑迫です」
なかなかいいじゃないか。
子供相手だからってタメ口で媚びるようなこともなく、余計な社交辞令がない。
事務的な説明は心地よかった。
「 これを」 と、既に用意されていた俺専用の ID カードを渡された。
出入りの際にカードをかざして暗証番号を入力すると言う。
中に入ると程よく空調がきいていて、アロマのような柑橘系の香りがかすかにした。
温度も湿度も空気も、全てが学習しやすい環境を作るために整えられているようだ。
説明を聞きながら、教室まで案内される。
入り口にあるカードリーダーにカードを当てると、塾での滞在時間が記録され、1ヶ月ごとに親に送られるのだそうだ。
授業は18時から21時まで。19時半から10分の休憩を挟む。
ビルの一階が受付、事務、講師室で、飲食ができるラウンジもあった。
二階が中1と中2。
三階が中3クラスとなっている。
三階には自習室もあり、パネルで仕切られた半個室で集中して勉強することができる 。
クラスは各学年3クラスずつある。
入塾テストに合格した者だけが選ばれているので、どのクラスもレベルは最初から高い。
その中でさらに ABC クラスに分けられている。
俺は当然トップのAクラスに入ることになった。
A クラスには俺の他に5名が在籍しているそうで、なかなか個性的なメンバーが集まっているという。
きっとメガネをかけた理屈っぽいオタクみたいな連中の集まりだろう。
俺は浮いてしまうかもしれない。
俺は外見にも気を遣うし、そこそこモテるし、ガリ勉タイプではない。
可愛い子が一人くらいはいるだろうか。
ダイヤの原石みたいな。
メガネを取ると美少女、みたいな子。
そんな子と恋をしてもいい。
夏も近いし、塾での出会いもありだ。
あと10分で授業が始まる。
「中へどうぞ」
教室のドアが開けられる。
緊張の一瞬だ。
みんなの注目を浴び、値踏みされる。
どうせ友達にもならないような勉強一筋の奴らだ。
気にしなくていい。
気にしなくて……。
「わぁっっ!」
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