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その女性はなんと娘の『お母さん』だった。
「びっくりしましたね。めちゃくちゃ若く見えますよ。あのお母さん。きれいですし。それにどうやら彼氏にとっては救世主みたいですね」
レジの前で佐藤が耳たぶをいじりながら言った。おそらくピアスの穴が痛いのだろう。
母親は席に着いて佐藤にブレンドだけ注文すると、すぐさま結婚を承諾しましょうと父親を説得しにかかった。
不自然なほどに手放しで結婚に大賛成だった。
席に着いた途端すぐに、だ。
「彼氏にとって救世主みたいというのはたしかにそうだが……。なあ佐藤、なんかおかしくないか」
「なにがです?」
「まず彼氏。母親が登場した矢先に勢いをなくしたようになって、また後日で直しますとか言い出したじゃないか。せっかく味方が来たのにだぞ」
「それは変だと思いましたがもう疲れたんじゃないですか。かれこれ三時間はああしていますよ」
「そうかもしれないが……。母親も母親だ。なぜ席に着いた途端に結婚を強引にすすめようとするんだ? 父親があんなに反対しているのに。浮気の話だってあるし。不自然じゃないか?」
「そりゃあ娘の味方がひとりくらいはいないと、と思ったんじゃないですか」
そうだろうか。
それにしてもただ彼氏の顔を見ただけで大切な娘の結婚に賛成する母親がいるだろうか。
「彼氏はもう逃げ腰だし、娘は母親が来てから話がこんがらがって機嫌が悪いみたいだし、父親は反対姿勢を崩さないし、母親は結婚を強引にすすめようとするし。もうめちゃくちゃだな」
「それはそれは……なんとも。ん? 娘が不機嫌なんですか。お母さんが来てから?」
「そんな感じだな。母親のブレンドを運んだときにはもうなんかぶーたれている感じだったぞ」
佐藤がぶーたれるは古いですよ、と言って天井のほうをみた。
「なるほど……。娘さんが不機嫌ね」
「なにかわかったのか?」
「そうですね……。彼氏が弱腰になったのはよくわかりませんが――、娘さんが浮気をバラした件についてはなんとなくわかりました。確証はまったくないですけれど。もう少しすれば真相がわかるかもしれません。ユウさんちょっと協力してください」
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