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死神少女ブラッディ・マリーは嗤う(2)
「キミみたいな女性が、死神少女に向いてるんだよねえ」
コウモリは、ぱたぱた、ぱたぱた、あたしの周りで羽ばたきながら、にい、と牙を見せて笑ってみせた。
ように見えた。
「復讐したい相手がいる。この世に未練を残しているのに、命が要らないように振る舞う。そんな怒りと矛盾を抱えた女性こそが、死神少女に相応しいんだ」
「復讐なんて……」
考えてない。そう言おうとして、『本当に?』と嗤いかける、もう一人のあたしがいた。
死んでやる事で、彼の心に一生残る爪痕をつけてやろうと思った。でも、実際ビルのフェンスを越えたら、はるか地上が遠くて、恐怖に身がすくんでしまっている。
このコウモリも、死にたいけど死にたくないあたしが見ている、幻覚なんじゃないか。そうとすら思った時、コウモリはすいっとあたしの肩に留まって、彼の囁きより甘い声で耳打ちしてきた。
「死神少女になれば、キミみたいに、純真な女の子をぼろぼろにした、身勝手な男達を成敗し放題。人の世の法で裁けない連中の命を、死神様に代わって刈り取る事もできる。正義の代行者だよ」
そんな都合のいい話があるか。あたしは唇をへの字に歪めた。
知っているんだ。マスコットと契約した魔法少女が、実はそのマスコットに利用される存在だった物語。当時ものすごい話題になったから、あたしもかじった。
きっと死神少女もそんなもんだろう。正義の名のもとに命を刈る。その先に幸せな人生が待っているはずなんて、きっと、無い。
それでも。
「……いいよ」
あたしは、唇の形を、歪みから笑みに変えて、コウモリに返していた。
「こんな世界に押し潰されるだけなら、どうせだから、あたしと同じ思いをする子が少しでも減る手伝いをしたい。好きに使ってやってよ」
「決まりだね!」
コウモリが嬉しそうに飛び上がり、くるくる、くるくる、あたしの周囲を飛び回る。
「ボクの名前はノワール! これからキミと一心同体だよ、よろしく!」
その言葉と同時に、コウモリが、どっ、とあたしの顔面にぶつかってくる。衝撃にぐらりと身体がよろめいて……。
あたしは、屋上から真っ逆さまに落ちた。
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