死神少女ブラッディ・マリーは嗤う(3)

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死神少女ブラッディ・マリーは嗤う(3)

『……て。起きてよ、ねえ!』  うーん、うるさい。日曜日は九時まで起こさないでよっていつも言ってるでしょ、お母さん。 『ボクはお母さんじゃないよ! ノワール! キミの相棒だよ!』  頭の中に直接響くような声に、あたしはがばりと起き上がった。  ぺたぺたと、顔を触ってみる。頭はスイカ割りのスイカのように無惨になってはいない。それどころか、どこも怪我をしていないようだ。ビルの屋上から落ちたと思ったんだけど。 『キミはボクと同化して、死神少女になったんだ。これくらいで死なない死なない!』  暗い路地裏には場違いなくらいに明るい、ノワールの声に嘆息し、ふっと、傍らの割れかけたガラス窓を見やる。そしてあたしは仰天した。  老いに焦って化粧で誤魔化していたアラフォー女は、そこにいなかった。窓に映るのは、血のように赤いふわふわの髪をして、赤く光る瞳を持つ、黒ローブに身を包んだ、十五、六歳と見える少女。 『これが、死神少女のキミの姿だよ』  可愛いでしょ? と、ノワールがふんすふんす得意気に鼻を鳴らすのが伝わる。たしかに、これなら誰もあたしと気づくまい。 『さあ、死神少女最初の仕事だよ。キミをもてあそんだ男に、鉄槌を下しにいくんだ』  ノワールがそう言うと同時、右手が熱を帯びた。かと思うと、今のあたしの小柄な背丈を悠々と超える大鎌が現れる。 『死神少女、いや』  ノワールが、にやり、と笑う気配がする。 『コードネーム、「ブラッディ・マリー」。可哀想なキミを選んで良かったと思う働きを、是非見せておくれよ!』  その言葉に応えるように、あたしも笑みを浮かべる。  ノワールがあたしを選んだ理由なんてどうでもいい。本当に可哀想だと同情してくれたのでも。たまたま死にたがりの女を見つけて、使える、と思っただけでも。  彼に、いや、あの野郎に、堂々と復讐する機会をくれただけで、充分だ。  たん、と。黒いロングブーツで地を蹴れば、身体は人の限界を超えて、嘘のように高く跳ね上がる。  あたしは人間をやめた。  これからは死神少女ブラッディ・マリーとして闇を駆ける。  その期待が、あまりにも快く胸を満たす。それは、今までの人生で味わったことの無い、至高の幸福感を伴っていた。
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