死神少女ブラッディ・マリーは嗤う(1)

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死神少女ブラッディ・マリーは嗤う(1)

「死神少女にならない?」  古い廃ビルの屋上、錆びたフェンスを越えて、今まさに死神の御許へ飛び立つか否かの葛藤。そんなあたしに声をかけたのは、小さな真っ黒いコウモリだった。 「死神少女に興味ない?」  唖然として立ち尽くしてしまうあたしの周りをぱたぱた飛び回りながら、コウモリは再度言う。 「はあー、なんであたし?」  思わず状況も忘れて、間抜けな疑問声が漏れる。死神少女なんて、不吉な事この上ない響きだ。魔法少女じゃないのか。  それにあたしはもう少女じゃない。立派なアラフォー目前のおばさ……もとい女性である。  そう、あたしはもうそんな歳だ。  それで焦って、しくじった。  職場の上司との不倫関係に。 『必ず妻と離婚して、君を幸せにするから』  そんな甘い囁きを信じて、『今月はお小遣いがもらえなくて』と言う彼の言葉を信じて、デート代も食事代もホテル代も、全部あたしが出した、一年間。 『それであいつはさ、何でもホイホイ俺の言う事を聞いて、貢いでくれるわけ』  給湯室で洗い物をしている時に、隣の男子トイレから、彼が同僚に語る、悦に入ったような放言が聞こえてきた。 『離婚する気なんてさらさら無いよ。折角安定した暮らしをしてるのに、手離す馬鹿がどこにいるかってんだ』 『そんなこともわからないから、こっちの思い通りになる。ほんとあいつを狙って良かったぜ!』  それが、彼があたしを選んだ理由。  知ってしまったあたしは、マグカップを洗う手が震えるのを、抑えることができなかった。  あたしは本当に馬鹿でした。  めちゃくちゃに泣きながら夜の街を歩いて、廃ビルの屋上にのぼったのが、五分前。  両親には迷惑をかけるけど、不倫なんかしてたあげくに騙された、そんな事が知れる方が恥だから、遺書は残さない。  さようなら、この腐れた世界。靴を脱いで揃えて、さあいよいよこの世に別れを告げましょう。  そんな時、件のコウモリが、あたしの目の前に現れた訳だ。
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