臆病カレッジ

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 おそるおそる薄目で確認した先生の手は、チョキだった。  先生と自身の手を、交互に確認する。 「はい、グーの人だけだよ。パーとチョキの人は、座ってね。誤魔化しても駄目だから。先生のところから、よーく見えているからね」  落胆と歓喜の声が入り交じる。まだ決まったわけでもないのに、グーを出したひとはみんな喜び、はしゃいだ。 「残っているのは、十人か。はい。じゃあ、二回戦目。いくよー」  そうして二度、三度と先生とのじゃんけんを繰り返し、残るは六人となった。 「じゃあ、残った六人でじゃんけんをしてください。負けちゃった人は、第二希望を考えておいてね」  勝ち残った六人が、教室の後ろの空いているところに集まった。  たった四つの席を賭けて、文句なしのじゃんけんが始まる。  そこには、わたしも、意中の彼もいた。  このまま、一緒に勝ち残ったらどうしよう。  嬉しすぎて、興奮してしまう。  そんな、どきどきとわくわくと、少しの不安を込めて。  盛り上がったじゃんけん大会は、あっというまに終了した。 ◆◆◆ 「ちょっと、また男子来てないじゃん!」 「忘れちゃってるのかな?」 「絶対わざとだって。後で文句言ってやる!」  木曜日の早朝。怒っている友達とわたしが立っているのは、飼育小屋前だ。  先月のあの日、見事じゃんけんに勝ち残ったわたしは、決められた担当曜日になると、こうして校庭の端にある飼育小屋へと来ていた。 「火曜もサボってたし、捕まえようとしたら逃げたんだから。苺樺(いちか)は、ムカつかないの? 花の水やりとか、掃除とか。面倒くさいことだけ、あたしたちに押しつけてんだよ?」 「まあまあ、かおりちゃん。とりあえず、水やりしよう? ね?」  同じ委員になった友達をなだめて、花壇の花たちに水やりをする。そうして、わたしたちは小屋内を掃除していた。  動植物のお世話って大変だ。『やってみたい』という単純な好奇心だけでは、務まらない。  週二回。早起きして、休み時間と放課後を委員の仕事に費やさなければならない。その上、餌やりも、掃除も、水やりも、サボったり間違えたりすると、彼らの命に関わってくる。  だから、かおりちゃんも怒りながらだったけれど、委員の仕事を優先して動いてくれていた。 「よし、こんなもんかな。鍵掛けて大丈夫?」 「うん、お願い」  一通りのお世話を終えて、施錠を済ませたわたしたちは、教室へと向かった。 「教室着いたら、吉田と木村をとっちめてやる!」
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