嘘吐きイノセント

3/13
前へ
/94ページ
次へ
 どうしよう。思いつかないだけなのに、このままじゃ食いしん坊な子だと思われちゃうよ。 「まあ、まだまだ時間あるし。決まったら、教えて」 「う、うん。わかった」 「それにしても、山本が学校休むなんて、珍しいよな」 「うん……風邪かな? 大丈夫だといいんだけど……」  話題に上がったのは、かおりちゃんだ。  わたしとは違って、活発な女の子。いつも元気で明るくて、とても優しい友達。  以前、皆勤賞であることを自慢げに話していた。  そんなかおりちゃんが、今日は珍しく欠席している。  先生からは、休みとしか教えてもらえていない。  明日は来られるかな? 心配だな……。 「山本の心配? 難しい顔してる」 「え……顔に出てた?」 「佐藤ってあんまりしゃべらないけど、顔でわかるな」  そういう吉田くんは、あんまりしゃべらない上に顔にも出ないから、わからない。  頭が良くて、クールで、いつも澄ました表情をしているけれど、実は忘れっぽかったり、時々意地悪なことを言ったりするし、イチゴが好きなんて可愛いところもある。  他の男子みたいに変なことをしたり、騒ぎ立てたりってことはしない。  だからか、彼はモテていた。六年の女子の大半は、吉田くんのことが好きと言っている。  わたしは今、そんな彼と二人で階段を上がっていた。  だけど、最上階の教室に辿り着いたら、この二人の時間もおしまい。  席も離れているし、話す話題もない。何より彼は友達が多いから、いつも誰かと一緒にいる。  だから、わたしがこうして彼と一緒にいられるのは、委員の日だけ。当番の時だけだ。  それでも、いつもはかおりちゃんがいる。今日みたいに二人きりになることは、まずない。  だからか……わたしは心のどこかで、かおりちゃんの欠席が今日であることを喜んでいた。  かおりちゃんが、熱で苦しんでいるかもしれないっていうのに、こんなことを思うなんて。わたしって、嫌な子だな……。 「佐藤は、優しいな」 「え?」 「だって、山本の心配してるんだろ?」 「っ……」  違う――わたしは、素直にそう言えなかった。  だって本当のことを言ったら、嫌なやつだって思われる。  吉田くんに嫌われる。かおりちゃんにも嫌われる。  本当のわたしは、優しい子なんかじゃない。  臆病で嘘吐きな、悪い子だ―― 「あ、五時間目始まる。急ぐぞ」 「う、うん……」  二人で階段を駆け上がる。  教室に入ったのは、チャイムが鳴り終わる頃だった。 ◆◆◆ 「かおりちゃん……その足……」
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加