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どうしよう。思いつかないだけなのに、このままじゃ食いしん坊な子だと思われちゃうよ。
「まあ、まだまだ時間あるし。決まったら、教えて」
「う、うん。わかった」
「それにしても、山本が学校休むなんて、珍しいよな」
「うん……風邪かな? 大丈夫だといいんだけど……」
話題に上がったのは、かおりちゃんだ。
わたしとは違って、活発な女の子。いつも元気で明るくて、とても優しい友達。
以前、皆勤賞であることを自慢げに話していた。
そんなかおりちゃんが、今日は珍しく欠席している。
先生からは、休みとしか教えてもらえていない。
明日は来られるかな? 心配だな……。
「山本の心配? 難しい顔してる」
「え……顔に出てた?」
「佐藤ってあんまりしゃべらないけど、顔でわかるな」
そういう吉田くんは、あんまりしゃべらない上に顔にも出ないから、わからない。
頭が良くて、クールで、いつも澄ました表情をしているけれど、実は忘れっぽかったり、時々意地悪なことを言ったりするし、イチゴが好きなんて可愛いところもある。
他の男子みたいに変なことをしたり、騒ぎ立てたりってことはしない。
だからか、彼はモテていた。六年の女子の大半は、吉田くんのことが好きと言っている。
わたしは今、そんな彼と二人で階段を上がっていた。
だけど、最上階の教室に辿り着いたら、この二人の時間もおしまい。
席も離れているし、話す話題もない。何より彼は友達が多いから、いつも誰かと一緒にいる。
だから、わたしがこうして彼と一緒にいられるのは、委員の日だけ。当番の時だけだ。
それでも、いつもはかおりちゃんがいる。今日みたいに二人きりになることは、まずない。
だからか……わたしは心のどこかで、かおりちゃんの欠席が今日であることを喜んでいた。
かおりちゃんが、熱で苦しんでいるかもしれないっていうのに、こんなことを思うなんて。わたしって、嫌な子だな……。
「佐藤は、優しいな」
「え?」
「だって、山本の心配してるんだろ?」
「っ……」
違う――わたしは、素直にそう言えなかった。
だって本当のことを言ったら、嫌なやつだって思われる。
吉田くんに嫌われる。かおりちゃんにも嫌われる。
本当のわたしは、優しい子なんかじゃない。
臆病で嘘吐きな、悪い子だ――
「あ、五時間目始まる。急ぐぞ」
「う、うん……」
二人で階段を駆け上がる。
教室に入ったのは、チャイムが鳴り終わる頃だった。
◆◆◆
「かおりちゃん……その足……」
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