嘘吐きイノセント

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 翌日、かおりちゃんは学校に来た。  昨日の欠席の原因が風邪でないことは、一目でわかった。  左足首に巻かれた包帯――そんな友達の姿を見たわたしは、昨日の自分へ対しての嫌悪感を、更に募らせることになった。 「家の階段で、足を踏み外しちゃってさ……」  あはは……と苦笑するかおりちゃん。言葉を失っているわたしを見た彼女の声音が、途端に明るくなる。 「骨折とかはしてないんだ。ちょっと、捻っちゃっただけ。歩けるから、心配しないで」  心配しないで……か。かおりちゃんは、優しい。  わたしが今考えていたことが心配じゃないって知ったら、どう思うのだろう? 「かおりちゃん、あんまり動かさない方が良いよね。何かわたしにできることがあったら、いつでも言ってね」 「苺樺……うん、ありがとう。優しい苺樺、大好き!」  ずきりと胸に刺さるものがある。屈託なく笑う、まっすぐなかおりちゃんが眩しくて、わたしは作り笑いを浮かべている自分が、嫌になった。  わたしは、優しくない。自分を守ろうとしているだけ。優しい自分を演じて、いい子であろうとしているだけだ。  だってそうじゃないと、何の取り柄もないわたしと一緒にいてくれるひとなんて、いない。わたしは、学校で孤独になってしまう。  そんなの嫌だ。嫌われたくない。  だけど、そんなわたしを、わたしは好きになれないでいた。 「うっわ、山本。どうしたよ、それ」 「木村くん……」  ふいに現れたのは、クラスメイトの木村くんだった。  彼は誰とでも分け隔てなく接する、明るい人だ。 「木村うるさい。しっしっ」  かおりちゃんが木村くんに、あっちへ行けとジェスチャーをする。  対する木村くんは、それを無視してかおりちゃんへと近付いた。 「何これ。骨折? 蹴ったら泣く?」 「そんなことしたら、あんたの骨を折ってやるんだから」 「こええ……冗談だっつーのに。こいつ、マジでやりそー」  やっと離れた木村くんに、ふんと腕を組み、斜に構えるかおりちゃん。  この二人は通っていた保育園が同じで、お母さん同士が友達という、幼なじみだ。  しかも、この六年間クラスが一緒の腐れ縁だと、かおりちゃんは言っていた。  わたしは五年生からの付き合いだけど、二人のやりとりはずっと変わらない。  互いのことをよく知っているひとがいるって、わたしには羨ましいな。  だって、飾らなくてもこうやって仲良くいられるんだもん。 「わかったら、さっさとあっち行く」  再び、ジェスチャーを繰り返すかおりちゃん。
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