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木村くんは唇を尖らせつつも、離れていった。
「ったく、あいつは……相手するのも疲れるわ」
「きっと、かおりちゃんのことが心配で、声を掛けてくれたんだよ」
「木村が? ないない。あ、そういえばあいつ、昨日の委員当番、ちゃんとやってた?」
「え……えっと……」
わたしが目を逸らして言葉に窮していると、かおりちゃんは盛大に溜息を吐いた。
「だよね……あいつが真面目にやるとは思ってなかった。さっき、ちゃんと言っとくんだった」
やれやれと首を振る友達に、わたしは苦笑を浮かべる。
「ごめんね、苺樺。吉田は手伝ってくれた? まさか、一人でこなしたとか、言わないよね?」
「うん。吉田くんが一緒にやってくれたから、大丈夫だったよ」
「そっか。でも、少しの間は迷惑かけちゃうと思う。ごめんね」
言いながら、自身の足首へと視線を向けるかおりちゃん。
怪我で痛いのは、かおりちゃんの方なのに……本当にかおりちゃんは、優しいな。
「毎日のことじゃないし、気にしないで。花壇の植え替えも終わっているから、今のところは大変なこともないし、大丈夫だよ」
「苺樺……うん、ありがとう。その代わり、木村の見張りは任せて」
ニッと笑いながら、ぐっと拳を作るかおりちゃん。
何だかおかしくて、わたしは笑った。
「ふふ、わかった。――あ」
「何、どうしたの?」
「えっと……その足じゃ、運動会……」
わたしは、それ以上を告げられなかった。わたしと違って、今週末の行事を楽しみにしていたかおりちゃん。
走るのが速くて、選手に選ばれていたのに……。
「最後の運動会に出られないのは残念だけど、めいっぱい応援するから」
「かおりちゃん……」
「でも、代わりに誰かに出てもらわないとだね。リレーと、徒競走と、二人三脚」
「他の競技との順番もあるから、出られるひとも限られるんじゃないかな?」
「そういえば、決める時に先生がそんなことを言ってたね……後で先生に聞いてみるよ」
この時のわたしは、呑気に構えていた。まさか、わたしが矢面に立つことになるなんて、想像すらしていなかった。
「え? 二人三脚に?」
その驚きは、昼休みに起こった。
教室でかおりちゃんといる時に、先生から声を掛けられたのだ。
そうして、彼女の代理で二人三脚への出場を提案された。
「佐藤さんは、玉入れと綱引きの二つだけだし、どちらも午前で終わる。午後からの二人三脚には、慌てなくても準備できるし。どうかな?」
「……」
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