嘘吐きイノセント

5/13
前へ
/94ページ
次へ
 木村くんは唇を尖らせつつも、離れていった。 「ったく、あいつは……相手するのも疲れるわ」 「きっと、かおりちゃんのことが心配で、声を掛けてくれたんだよ」 「木村が? ないない。あ、そういえばあいつ、昨日の委員当番、ちゃんとやってた?」 「え……えっと……」  わたしが目を逸らして言葉に窮していると、かおりちゃんは盛大に溜息を吐いた。 「だよね……あいつが真面目にやるとは思ってなかった。さっき、ちゃんと言っとくんだった」  やれやれと首を振る友達に、わたしは苦笑を浮かべる。 「ごめんね、苺樺。吉田は手伝ってくれた? まさか、一人でこなしたとか、言わないよね?」 「うん。吉田くんが一緒にやってくれたから、大丈夫だったよ」 「そっか。でも、少しの間は迷惑かけちゃうと思う。ごめんね」  言いながら、自身の足首へと視線を向けるかおりちゃん。  怪我で痛いのは、かおりちゃんの方なのに……本当にかおりちゃんは、優しいな。 「毎日のことじゃないし、気にしないで。花壇の植え替えも終わっているから、今のところは大変なこともないし、大丈夫だよ」 「苺樺……うん、ありがとう。その代わり、木村の見張りは任せて」  ニッと笑いながら、ぐっと拳を作るかおりちゃん。  何だかおかしくて、わたしは笑った。 「ふふ、わかった。――あ」 「何、どうしたの?」 「えっと……その足じゃ、運動会……」  わたしは、それ以上を告げられなかった。わたしと違って、今週末の行事を楽しみにしていたかおりちゃん。  走るのが速くて、選手に選ばれていたのに……。 「最後の運動会に出られないのは残念だけど、めいっぱい応援するから」 「かおりちゃん……」 「でも、代わりに誰かに出てもらわないとだね。リレーと、徒競走と、二人三脚」 「他の競技との順番もあるから、出られるひとも限られるんじゃないかな?」 「そういえば、決める時に先生がそんなことを言ってたね……後で先生に聞いてみるよ」  この時のわたしは、呑気に構えていた。まさか、わたしが矢面に立つことになるなんて、想像すらしていなかった。 「え? 二人三脚に?」  その驚きは、昼休みに起こった。  教室でかおりちゃんといる時に、先生から声を掛けられたのだ。  そうして、彼女の代理で二人三脚への出場を提案された。 「佐藤さんは、玉入れと綱引きの二つだけだし、どちらも午前で終わる。午後からの二人三脚には、慌てなくても準備できるし。どうかな?」 「……」
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加