嘘吐きイノセント

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「苺樺、無理しなくて良いんだよ? 嫌だったら――」 「う、ううん。大丈夫だよ、かおりちゃん。ありがとう」 「苺樺……」  こんなことが償いになるわけじゃないけど、かおりちゃんのためにも頑張ってみたいと思った。  本当はちょっと嫌だったけれど、リレーに出ろって言われているわけじゃないしと、自身を納得させる。 「先生、わたし、二人三脚やります」 「ありがとう、佐藤さん。それじゃあ、組む相手を考えようか」 「そっか。片山っちと苺樺じゃあ、身長差が大きいから……」  かおりちゃんが組む予定だった子は、クラスの誰よりも背が高い。高めのかおりちゃんならまだしも、わたしと並ぶとでこぼこすぎて、歩幅が合わなさすぎる。  そのために、ペアを変えようという話になった。 「えーっと……ああ、吉田くんと松井さん。それから片山さん。ちょっといいかな?」  先生が呼んだのは、まさかの吉田くん。そうだった。彼も二人三脚に出るんだ。 「松井さんと片山さん。吉田くんと佐藤さん。うん、この方がバランス良いね。このペアでお願いできるかな、四人とも」 「良いですよ」  言ったのは、片山さん。吉田くんも頷いている。たった一人、松井さんが黙っていた。 「じゃあ、リレーなんだけど……」  言いながら先生は、片山さんと歩き出してしまった。どうやらリレーの代理に、片山さんを指名するらしい。  しかし今のわたしには、それよりも気掛かりなことがあった。黙ったままの松井さんだ。  彼女は席に戻っていく吉田くんを横目に、こちらへ体を向けた。 「せっかく、吉田くんとペアだったのに……」  そう呟く彼女の顔は、悔しさに染まっていた。 「まあ、佐藤さんは何も悪くないし、言ったって仕方ないか。ねえ、佐藤さんって、好きな人はいないって言ってたよね?」  確認するような問いに、思わず戸惑いながら頷く。 「う、うん……」 「じゃあ、いっか。仕方ないから、譲ってあげる」  言って、離れていく松井さん。  かおりちゃんが、こそっと耳打ちしてきた。 「あの子、吉田のこと好きらしいよ」 「そう、なんだ……」  だからさっき、あんなことを……好きなひとと二人三脚のペアなんて、嬉しかったに違いない。  わたしなんて、同じ委員になっただけですごく喜んだ。だからこそ、松井さんの落胆は大きいだろう。  もしも彼女に、わたしが吉田くんのことを好きだってことがバレたら、どうなるんだろう。  わからない。だけど、平穏に終わるとは思えなかった。
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