嘘吐きイノセント

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「苺樺、二人三脚頑張ってね。練習時間、ほとんどないけど」 「あ……」  今日は水曜日。運動会は、土曜日だ。 「ちょうど、五時間目は運動会の練習だし。吉田に頼んで、練習付き合ってもらいなよ。吉田も走るタイミングとか、練習したいだろうし。一緒に言いにいってあげる」 「そ、そうだね。ありがとう……」  吉田くんとペアになれた嬉しさと、彼の足を文字通り引っ張るんじゃないかっていう不安が、わたしを襲う。  ただでさえ、運動会には消極的なのに。  わたし、上手くやれるだろうか……。 ◆◆◆  土曜日。運動会当日の天候は、やや雲の多い晴れ。時折吹く風が心地よく、良い具合に雲が日差しを遮ってくれ暑すぎないという、非常に恵まれたものだった。  早起きして、体操服姿で登校する。今日はランドセルではなく、リュックだ。  両親は、幼い弟と揃って後で行くと言って、笑顔で見送ってくれた。  見慣れた道。何度も通った学校。だけど、いつもと違うことをしていると、それだけで緊張感が増した。  玉入れも綱引きも、クラス対抗別リレーも、六年生全員でやるプログラム最後のダンスも緊張する。  だけど、何よりもわたしの睡眠を削ったのは、やっぱり二人三脚だった。  代理出場というだけでなく、一緒に走るペアがあの吉田くん。  あまり練習できなかった上に、一度もきちんと走れていない。  どうやら力が入りすぎているらしく、かおりちゃんや先生からアドバイスをもらったけれど、全然上手くいかない。  わたしのせいで最下位だったら、どうしよう……吉田くんにも迷惑かけちゃう。  盛大に溜息を吐いていると、いつのまにか学校に辿り着いていた。  重い足取りでいつも通りに教室へ向かうと、既に何人かが来ていた。その中には、吉田くんの姿もある。と、彼がわたしの席へ近付いてきた。 「佐藤、おはよう」 「お、おはよう……」  吉田くんから挨拶をしに来てくれたことが嬉しすぎて、頭の中で「うわあああ」と慌てふためく。  すると、彼はくすりと小さく唇で笑った。 「何、面白い顔してんの? さっきまで、緊張で固まってたくせに」 「え……」 「まあいいや。今日はよろしくな。おれ、この学校での運動会は初めてだから、楽しみにしてたんだ。今日は、お互い楽しもう」 「楽しむ……? 勝つとか、頑張ろうじゃなくて?」  わたしが小首を傾げると、刹那目を瞬かせて。そうして吉田くんは、ふわりと優しい声で「うん」と言った。
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