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「そう、だね」
「好きになっても良いけど、私が勝つから」
「え?」
「私、吉田くんを好きな気持ちは、誰にも負けないって思ってる。絶対に」
それだけ言い残して、松井さんは行ってしまった。
すらりと伸びた手足。さらりとした艶やかなロングヘアー。綺麗な顔立ち。
松井さんはパッと目を惹くような、美人なひと。
いつも堂々としていて、格好良い。吉田くんの隣に立つと、絵になる。お似合いの、二人……。
吉田くんが好きになるひとって、やっぱりああいう綺麗な子かな? それとも、可愛い子かな?
そんなひと、いっぱいいる。わたしよりも可愛い子は、いっぱいいるんだ。
こんな嘘吐きよりも、胸を張って堂々としているひとの方が、良いに決まっている。
わたしは、相応しくない。吉田くんの隣にも、かおりちゃんの隣にも。誰のそばにも。
ぐっと、拳を握り締める。
変わりたい。
ひとを羨むばかりの自分を、変えたい。
相応しくないなら、相応しいひとになりたい。
だって、諦められない。
わたしだって、吉田くんのことが好き。
誰にも、負けたくない。
そう思う気持ちだけは、嘘なんてない。本物だから。
だから、勇気を出そう。
委員への立候補を決めた時と、同じ。
見ているだけじゃ、チャンスは掴めない。
何度もした後悔を重ねるのは、嫌だ。
もう意気地なしの自分を見るのは、止めにするんだ。
だって、楽しみたい。勝つとか負けるとか、そんなんじゃなくて、わたしは好きになった気持ちを大事にしたい。
この恋を育てることを、楽しみたいんだ。
それは、イチゴを育てるのと一緒だと思うから。
「よし」
頑張ろう。そう決意して顔を上げたわたしは、飼育小屋のそばに誰かがいることに気が付いた。
「今日は、立ち入り禁止になってるはずじゃ……?」
気になったわたしは、戸惑いつつも飼育小屋へと近付いていった。
徐々に姿がはっきりする。その人物が、わたしに気付いた。
「佐藤?」
「吉田くん……どうして、ここに……」
小屋の前にいたのは、吉田くんだった。
一人だ。他には、誰もいない。
「特に理由はないけど」
「一人なの?」
「うん。何で?」
「え……えっと、家族のひとは?」
「仕事なんだ。だから、いない」
「そうだったんだ……」
「何で、佐藤が寂しそうな顔すんの?」
「え……」
吉田くんは、困ったような顔で笑っていた。
「おれだけじゃないでしょ。他にも同じような子、いるよ」
「そうかもしれないけど……何だか、吉田くんが寂しそうに見えたから、かも……」
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