動揺ハピネス

1/11
前へ
/94ページ
次へ

動揺ハピネス

 爽やかな色の絵の具をさっと塗ったような空。  白く浮かぶ、小さなわたあめのような雲。  思い出した言葉は、天高く馬肥ゆる秋。そんな土曜日。  外に出ると少し肌寒くて、ふるりと肌が粟立った。玄関を引き返し、薄手のカーディガンを部屋へ取りに戻る。  そうして数分遅れてから、花壇の前にいるお母さんの元へ向かった。 「来たわね、苺樺(いちか)」 「わたしにも、じょうろ貸して」  お母さんからじょうろを受け取り、自分用に与えてもらったプランターへ向かう。  毎日のことだから、随分と慣れた。今では、一人で水やりができる。 「あげすぎないように……と」  今日も良い感じだ。葉の色は緑が濃くて綺麗だし、活き活きしている。 「早く大きくなあれ。甘くて大きなイチゴになあれ」  何かの呪文のように唱えて、笑いかける。  そうやって、いくつか言葉を掛けた後、わたしは立ち上がった。 「楽しそうね」 「お母さんがいつも楽しそうにしている理由が、わかった気がする」 「あら、それは嬉しいわ。でもね、楽しいだけじゃないのよ」 「わかってる。毎日毎日、大変だよね」  お母さんは野菜とか花とか、とにかくいろんな種類の植物を育てている。  わたしはイチゴだけでも大変だと感じているのに、本当にすごいと思った。 「そうそう。あれから、かおりちゃんの足は良くなったの?」 「うん。もう一人で歩いてるよ」 「そう、良かったわね。運動会は残念だったけど、暗い顔一つせずに一生懸命応援していて、お母さん感動したわ」 「ふふ。明日、伝えとくね」 「あら、明日といえば、苺樺。ハロウィンパーティーの準備は、できたの?」  今年のハロウィンは平日。しかも、委員当番の日だ。  当日は早く帰ることができないから、少し早いけど明日にお菓子パーティーをしようということになった。  メンバーは、かおりちゃんと、木村くん。吉田くんは家の用事があるらしくて来られないと、木村くんが言っていた。  吉田くんがいないのは残念だけど、仕方がない。かおりちゃんは、わたしと二人でお菓子作りをして遊ぶ予定だったのにって、木村くんの飛び入り参加宣言に怒っていたけど、その表情は嬉しそうだった。  明日は、かおりちゃんの家に行く。一緒にクッキーやマドレーヌを作って、食べながらおしゃべりする予定だ。  木村くんはお菓子ができた頃に行くって言っていたし、お菓子をいっぱい持っていくとも言っていた。  だから持ち物は、かおりちゃんと分担して決めた材料の一部。その用意は、もうできている。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加