臆病カレッジ

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 かおりちゃんにも、誰にも言ったことはない。だって言ったら、溢れてしまいそうだ。口にしたら、止まらないと思う。  言葉にできないくらい、わたしは吉田くんのことが好きなんだ。 ◆◆◆  昼休み。遅れて飼育小屋にやって来たかおりちゃんは、「ごめん」と言いつつも表情が得意げだった。 「お待たせ、苺樺。捕まえてきたよ」 「捕まえてって……あ……」  彼女の後ろには、男子が二人いた。不満顔の木村くんと、いつも通りの吉田くん。  引っ張ってこられたのが木村くんで、その後を吉田くんがついてきたという様子だ。 「今までサボってた分、しっかり掃除してよね! 木村は逃げるから、あたしとこっち来て」 「ちぇーっ。ドッジやりたかったのによー」 「終わってから行けばいいでしょ!」  木村くんをつれて、ニワトリ小屋へと入っていくかおりちゃん。  呆然と二人を眺めていたわたしは、吉田くんと二人きりになっていることに気が付いた。  意識した途端、心臓が耳元でばくばくと存在を主張する。体温が上がるのを感じた。 「佐藤。おれ、何したらいい?」  ふいに吉田くんから声を掛けられ、わたしは挙動不審になる。びくりと肩が跳ねた。 「へっ、え、えっと、じゃ、じゃあ……うさぎ小屋の、掃除……」 「わかった」  口数の少ない吉田くん。彼はいつも通りなのに、わたしだけが意識してしまっている。  今は、当番の仕事をしなきゃ。平常心、平常心……。  深呼吸を一つして、自身を落ち着かせる。  てきぱきと、ほうきで餌くずやフンを集めている吉田くんを横目に、わたしはうさぎたちの飲み水を用意した。  あらかた集め終えたのだろう。吉田くんが、きょろきょろしていることに気が付いた。  水入れを持って戻ると、吉田くんがわたしの名を呼ぶ。 「佐藤。ちりとり、どこ?」 「あ、ちりとりだね。待ってて、すぐ取ってくる」  慌てて駆けていくわたしだったが、小屋の入り口にある段差に躓き、前のめりに転んでしまった。  派手な音がしたし、転んでしまったしで、すごく恥ずかしい。  絶対、吉田くんに見られた。ドジな子だって、笑われるかも……。  のっそり起き上がるも、顔を上げられない。  好きなひとに、格好悪いところを見られてしまった。  服についた土を払いながら、痛いし恥ずかしいしで、泣きそうになってくる。  そのまま無言で、ちりとりを取りに行くため足を踏み出すと、背中に柔らかい声が掛かった。  吉田くんだ。 「待って、佐藤。血、出てない?」 「え……嘘……」
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