臆病カレッジ

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「ちなみに、吉田は逃げないようにね!」 「うーん……逃げるつもりはないけど、忘れそうだから……佐藤。放課後、声掛けてよ」 「えっ……う、うん。わかった」 「あとは、木村……あいつ、絶対逃げそう」  かおりちゃんが木村くんに対してどうするかを考えていたけれど、わたしの耳には一切入ってこなかった。  だって、放課後にはまた吉田くんと一緒に当番ができる。  まるで、彼との約束が一つできたみたい。そう考えただけで、胸がきゅうっとした。  もっと話がしたい。もっと吉田くんのことを知りたい。もっと仲良くなりたい。  もっと、もっとが、どんどん溢れてくる。  こんなに欲張りになって、わたし、この気持ちを隠しておけるのかな―― ◆◆◆  放課後、わたしは勇気を振り絞って、吉田くんに声を掛けた。  彼は「あ」と一言漏らした後、背負おうとしていたランドセルを置いた。  どうやら、本当に忘れていたらしい。  わたしがくすりと笑うと、また目を逸らして「笑うな」と言った。  それが照れであることは、すぐにわかった。だからわたしは、また小さく笑ってしまったのだった。  そうして、今は飼育小屋の前にいる。  期待と違ったのは、二人きりじゃなかったこと。  今ここには、木村くんも同席していた。 「うさぴー、いっぱい食えよー」  餌を片手に遊んでいる木村くん。どうやら、当番の仕事をしに来たのではなく、ニワトリやうさぎたちと遊ぶために来たようだ。  かおりちゃんがいないことも、要因の一つであるようだった。  来たら、どうするんだろう……。また、けんかになっちゃうのかな?  そうやって、数分後の心配をしているわたしはというと、花壇の雑草を抜いていた。  他の仕事が、あらかた終わったからである。 「こっちは、何も植えてないの?」  突然そばで優しい声がして、わたしはびくりと肩を跳ねさせた。  振り向くと、吉田くんが屈み込んでいる。  思っていたよりも近くに彼の顔があって、わたしは慌てて視線を前方に戻した。 「そっ、そこは、今度パンジーを植えるって、先生が、言ってたよ……」 「ふうん……こっちは?」 「そっちは、イチゴ……」 「へえ……できたら、食べたりするかな?」  返ってきたのは、少し弾んだ声。だけど、わたしは真逆の声を出した。 「えっと、それは、無理だと思う」 「何で?」 「できるのは、五月くらいだから」  告げた言葉に、肩が下がる気配がした。気分を害したわけではなさそうだが、何だか気になる。 「何だ。卒業した後か」 「うん……」
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