<1・序曲>

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『いやぁぁぁぁぁ!痛い痛い痛い痛い!お腹潰れちゃう、潰れちゃう!ごめんなさいごめんなさい、ズルしようとしてごめんなさい!反省したから、反省しましたから許して!許しっ……ぎゃっ、ぎ、ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!』  ぶしゅう、と風船が弾けるような音がした。彼女の痩せた足がバタバタと地面を蹴って狂ったように暴れ、その可愛らしいピンクの下着が漏らしたもので汚れていく様を見た。やがて噴き出す糞尿には赤い色が混じり、彼女の足は自分の意思ではなく、びくんびくんと跳ねるように痙攣を始め。  ドアは、閉まってしまったのである――こちら側に彼女の下半身を残したまま、ぴったりと。  彼女が脱出できたのは、その上半身だけだった。排泄物と血が混ざりあった凄まじい臭い、寸断された胴体から除く千切れた腸やらなんやら。その場で凍りついていた者が揃って嘔吐していた――実紗自身も含めて。 ――死にたくない。あんな風に、死にたくない!家に帰して、お願いだから……!!  あの忌々しい犯人達を倒す術など、自分達にはない。  ならばゲームのルールに則って、この研究所のような窓のない建物からの脱出を図らなければならない。  時間制限はないが、手をこまねいている余裕はなかった。なんせ連中は言っていたのである。時間がかかればかかるほど、“キメラ”の数を増やしていくと。一匹だけでも厄介だったあの怪物が、時間経過とともに増えていくなんて冗談ではなかった。あの怪物は生徒を見つけると問答無用で襲う。そして生きたまま食べるのだ――トドメを刺してから食うなんて慈悲も持たずに。  ドアに挟まれて死ぬのもごめんだが、あの怪物に生きながら食われるのもごめんだった。友人の一人は生きたまま手足を引き抜かれて、地獄の苦しみの中死んでいったのである。  自分はそうはならない。なりたくない。  仲間を見つけるか、それができなければ一人でも戦って、活路を見いだすしかないのだ。幸い化け物は恐ろしくとも、必ず倒さなければならない敵ではないのだから。 ――能力、今度はうまく使えるといいな。前みたいに上手に逃げられるとは限らないんだから。  実紗の両腕に填まったブレスレットは、ルール違反をした時に実紗の両手を吹き飛ばすおぞましい凶器であると同時に、生き残るための唯一の武器と言って良かった。
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