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「永久は今 雨が下なる 五月かな
……光降るらむ 君のゆく先」
今は永遠となり、十兵衛さまの未来は、五月雨のように栄光が降り続けるだろう。
こんなおれに 諱である“光”をくださったお礼も込めた一句だ。
「うむ、よい句ではないか」
「恐れ入ります」
お叱りの言葉こそなかったが、十兵衛さまの反応は芳しくない。あまりよい句ではなかったようだ。申し訳なく思っていると、息子の光慶が含み笑いをしながら言った。
「父上は、光雨のような美男子にこれほどに持ち上げられて、照れておいでなのだ。そうでしょう?」
周囲からどっと笑いが起こった。十兵衛さまも「さすが光慶、お見通しじゃな」と軽口を叩き、笑っている。
おれはほおを紅潮させながらも、ほっと救われた気持ちになった。
「永久は今 雨が下なる 五月かな 光降るらむ 君のゆく先」
おれは生まれて初めて神仏に願った。
この和歌のような未来が待っていますように、と。
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