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「厳罰、とは…」
おれは問う。
重い沈黙のあと、ぽつりと光慶はつぶやく。
「一族、重臣は、京都市中引き回しの上、斬首。
家臣の妻子は銃殺刑。
使用人たちは小屋に閉じ込められ、火をつけられて焼死。
…これらは数年前、謀反の疑いある家臣に対し、信長さまが実際に下した処罰だ。なんとも恐ろしい話ではないか」
「そんな…」
明智家に関わる者たちが皆、殺されるかもしれない…。想像しただけで悪寒が止まらなくなる。
「これまで明智家は、信長さまのために粉骨砕身してきたというのに、なんたることか…!」
ぎりっと歯ぎしりしながらそう言うと、光慶はおれの両肩をがっとつかんだ。
「なあ光雨。そなたは間諜だ。そなたの存在は、明智家の一部の者しか知らぬ。…光雨なら、あの信長を亡き者にできるのではないか?」
「…暗殺、ということですか?」
震えながらつぶやくと、光慶はおれの体をゆすった。
「あの信長が、謀反の疑いをかけておきながら温情を下すはずがない! 殺られる前に殺らねば、父上も殺されてしまうのだぞ!」
十兵衛さまが殺される…。誰かに嵌められ、謀反の疑いがあるというだけで…。あれほど主君に尽くしてきた十兵衛さまが…。
…信長がどうした。
おれの主君は明智十兵衛さま、ただ一人。
主君が殺されようとしているのに、このままのうのうとしていられるか!
おれは決意した。
「承知致しました。必ずや、あの信長を亡き者にしてみせまする」
震えは止まった。
おれの目は、冷たい殺意に満ちていた。
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