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「だ、誰だ…! ……ぐあっ」
見張りの小姓を切り殺し、血に濡れた刀を手に、ずかずかと寺に土足で踏み込む。廊下をしばらく歩くと、灯りのついた部屋が見えた。
(…ここか!)
おれは障子を開けた。
そこにいたのは壮年の男性と、身の回りの世話をする少年たちが二人。
「くせ者!」
「信長さま、お逃げください!」
刀を抜く少年たちの言葉で、おれは確信する。
(…やはり、こいつが信長…!)
「…悪く思うな」
大きく刀を振りかぶって向かってきた少年の、その腹を切り裂く。両手を広げ、信長を守ろうとする少年の首を落とす。
年端もいかぬ少年を殺しているのに、憐れみすら感じない。
十兵衛さまのためなら、おれは鬼になる。
「おぬしが誰だかは知らぬが、この信長の首、そう易々と渡しはせぬ!」
信長は抜刀と同時に攻撃をしかける。おれは刀身を横にし、どうにか信長の刀を受けた。
…一太刀が重い。動きにも無駄がない。
が、ここで負けるわけにはいかない。
「てああっ!」
気合いで押し返し、刺し違える覚悟で胸を一突きにする。
信長は口から血を吐き、目をかっと見開いたまま、どうっと倒れた。
いくつもの死体が転がる、血生臭い部屋の中で。
場違いな拍手の音が聞こえた。
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