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ごうごうと燃え盛る寺。
そこから逃げる、一人の少年がいた。
(死にとうない、まだ死にとうない…!)
あの侍どもは化け物だ。
寺に火をつけ、人々を刀で切り殺す。
丸腰の僧侶、命乞いする女、幼き子ども…、皆、容赦なく殺された。
生きたまま焼かれ、逃げまとう者たちの叫びが、耳に残って離れない。
(あんなの戦じゃない。ただの虐殺じゃないか…!)
おのれを殺すは、火の粉か、刀か、弓矢か。
想像するだに恐ろしい。
恐怖に心臓をわしづかみにされ、夜の獣道をひたすら走る。
ぽつりぽつりと雨が降ってきた。
雨は次第に強くなり、少年のゆく道を泥濘ませる。
「はあ、はあ…。っあ…!」
泥に足をとられ、前のめりに倒れた。
裸足で駆けていたせいで、足のあちこちから血が噴き出し、ずきずきと痛む。
少年は、まだ数え年で6つだ。体力は限界だった。
どうやらおのれを殺すは、炎でも刃でもなく、飢餓と衰弱であるらしい。そう少年は悟った。
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