時は今 雨が下しる 五月かな

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(おれ)の命もここまでか…)  激しさを増す雨が、少年の命の灯を消そうとした、その時。  馬のいななきが聞こえた。  馬の足が泥を跳ね上げる音が、だんだんと近づいてくる。馬上から誰かが降りてくる気配がする。だが少年は顔を上げる気力すらない。 「どうした、小童。あの寺から逃げてきたのか。 …そう睨むな。安心せい。わしはそなたを殺しはせぬ。 どうした。腹が減っておるのか。さあ、食え」   雨でぼやけた視界に、白飯のにぎりが見えた。  物も言わずに夢中でかぶりつき、咀嚼もせずに呑みこむ。  腹の底が熱くなる。  ああ、生とはこういうものであったか。  生きた心地に涙がこみあげてきた。  「おぬし、名はなんと申す」  おれは顔を上げた。  …明らかに侍だ。  だが敵ではないと判断し、ぽつりと言う。 「…徐之介。だが、この名前は嫌いだ」  5つの時、わずかな金と引き換えに、親に延暦寺に追いやられた。朝から晩まで僧侶どもにこきつかわれ、ちょっとした(あやま)ちをねちねちとなじられる日々。そして今、寺が焼き討ちされ、命からがら逃げだした次第。  そう身の上を語ると、その人は一瞬、刀の(つか)に手をかけた。だが、しばらく逡巡(しゅんじゅん)してから首をふり、刀から手を離し、雨の中で微笑んでこう言った。
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