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「そうか。では、儂が新しい名をやろう。
…そうだな。こんな雨の日に出会うたから、“光雨” はどうだ?」
訳も分からぬまま小さくうなづくと、その人は破顔した。
「共に城へ来い。
風呂と食事を準備させようぞ、光雨」
少年は目を見開いた。
このお方はただの侍ではない。
どうやら、城を預かる武将のようだ。
それなのに、こんな泥だらけの子供に名前をつけ、連れ帰ろうというのか。
「あなた様は、いったい…」
問う光雨に、その人は答えた。
「わしは明智 十兵衛。諱は光秀と申す」
この時のおれは、あまりに幼過ぎた。
なぜ十兵衛さまが、おれに“光雨”……御諱である“光”を授けてくださったのか。
その理由を考えることすら出来なかったのだから。
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