時は今 雨が下しる 五月かな

8/18
前へ
/18ページ
次へ
 翌年、五月二十八日。  愛宕(あたご)山、白雲寺、威徳院(いとくいん)。  嫡男である明智光慶(みつよし)さま、歌の師匠である里村(さとむら)招巴(じょうは)さまをはじめ、親しい者だけを集めた連歌会が催された。のちに愛宕百韻(あたごひゃくいん)と呼ばれる会である。  十兵衛さまは事もあろうに、おれなんかをその連歌会に招待してくださった。あまりに恐れ多いことだ。 「十兵衛さま…。おれには教養などござりませぬ。連歌会に呼んでくださったのは嬉しいですが、十兵衛さまに満足していただけるような句を作れるとは思えませぬ」 「なにを言うておる。 連歌会など、花見や月見と同じようなものじゃ。 気楽にしておればよい」 「そうは言われましても…」  戸惑うおれをよそに、連歌会が始まってしまった。  十兵衛さまは、しとしとと雨が降る庭をじっと眺めた。それからおもむろに筆を持ち、短冊にさらさらと始まりの句…発句(ほっく)を書き、詠みあげた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加