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翌年、五月二十八日。
愛宕山、白雲寺、威徳院。
嫡男である明智光慶さま、歌の師匠である里村招巴さまをはじめ、親しい者だけを集めた連歌会が催された。のちに愛宕百韻と呼ばれる会である。
十兵衛さまは事もあろうに、おれなんかをその連歌会に招待してくださった。あまりに恐れ多いことだ。
「十兵衛さま…。おれには教養などござりませぬ。連歌会に呼んでくださったのは嬉しいですが、十兵衛さまに満足していただけるような句を作れるとは思えませぬ」
「なにを言うておる。
連歌会など、花見や月見と同じようなものじゃ。
気楽にしておればよい」
「そうは言われましても…」
戸惑うおれをよそに、連歌会が始まってしまった。
十兵衛さまは、しとしとと雨が降る庭をじっと眺めた。それからおもむろに筆を持ち、短冊にさらさらと始まりの句…発句を書き、詠みあげた。
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