映画館1

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この映画館のシアターは6個。 手前からA、B、C... Fまである。 だが、実はFの奥にもう一つ シアターがある。 従業員さえ入ることが許されていない。 新人研修で"絶対入らないように"と。 理由は老朽化していて危険だからと 聞かされているが、 この映画館内はどこも同時期に 建てられているため、明らかに嘘である。 だが、本当のところは誰も知らない。 バイトの先輩の話によると、 "呪われたシアターZ"と 呼ばれているらしい。 過去にあのシアターに立ち入った者が 相次いで自殺した、 という噂がその由来だ。 とはいえ、今では当時のことを 知る者は残っておらず、 語り継がれるおとぎ話状態である。 「シアターBにて、盗撮犯発見。 手の空いている従業員は応援頼みます。」 そう聞こえてきたのは、 シアターFでの清掃を終えて 出てきたところであった。 "手の空いている従業員"に 該当している訳なのだが、 わざわざ離れたシアターBまで 行くことを内心躊躇った。 一旦シアター内に戻り、 先程確認したばかりの通路を 右往左往していると、 インカムを通じて応援を名乗り出る者が 次々にあらわれた。 ''自分以外の誰かが動いてくれるだろう" そんな甘い考えが私のどこかにある。 こういう時に咄嗟に動ける人間に ならなくてはならないと思いつつも、 サボり癖からはなかなか抜け出せない。 ホッとしつつも、 モヤモヤした気持ちに包まれた。 もしも気持ちが目に見えるならば、 右手のゴミ袋に全て吐き出してしまいたい。 防音の重い扉を開けると、 向かいにある例のシアターが目に入った。 呪われたシアターZ。 先輩の声が脳内で再生される。 「ん。」 よく見ると、普段は施錠されている扉が 少しばかり開いており、 僅かな隙間から光が漏れている。 そっと辺りを見渡してみるが、 他の従業員の姿は見当たらない。 付近の従業員は盗撮犯の対応中なのだろう。 これは二度とないチャンスなのでは。 そう思ってしまった私は、 かつてからこのシアターへの 興味があったのだと思う。 考えるよりも先に身体が動き、 向かい側まで小走りで向かった。 そして、シアターZの中へと 吸い込まれるようにして進んでいった。
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