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「………待て」
酒の入ったお猪口を口付け、ガニメデスが、酒瓶を運んできたスーツの男を呼び止めた。
瞬間、侍らせていた少年や、身辺警護をしていたマフィア達が、恐怖を感じ凍りついた。
「………私は、いつもコロシアムを観る時は"タマギツネ"と決めているのだが?」
どうやら、酒の種類を間違えたようだった。
だが、そんな些細な事でも容赦しないのが、ガニメデスという女だ。
今までも、そうして殺された者達は何人もいる。
今日もまた、死体が増える………かに思われた。
「ここ最近人員の移動は行っていない………間違えるなどあり得ん………貴様"誰"だ?」
どうやら、今回は勝手が違う様子。
思えば、ガニメデスから呼び止められたというのに、スーツの男は恐怖すら感じる様子も見せず、ただ立っているだけだ。
こんな事は、ガニメデスの周囲ではまずあり得ない事てある。
「………ふふふ、流石はミス・ガニメデス、勘が鋭い!」
次の瞬間、スーツの男が飛び上がった。
ガニメデスを含めた一同が見守る中、スーツの男は、なんとその身体が「破けた」。
まるで、全身に変装マスクを被っていたかのように、ビリビリとその姿を破きながら、ガニメデスの目の前にスッと降り立った。
「やはり………「忍」か!」
それは、もうスーツの男ではなかった。
性別も、年齢も、体格も、まったくの別人に変化していたのだ。
「彼女」は、ガニメデスのようなバイオ技術で誤魔化しているのではない。
正真正銘の若い、本物の少女の肢体を持っていた。
切り揃えられた前髪と、後ろに流れる長い髪は黒く、漆を塗ったように艶やかで、サラリと風に靡いていた。
そのバストは豊満で、それを包むのは、かのティターンズの制服を真っ白にして、金の縁取りを着けたような上着とスカート。
むっちりしたヒップと脚を黒いタイツとブーツで覆い、ベルトには銃………ではなく、なんと鞘に指した日本刀が。
美少女だ。
軍服を着た、美少女だ。
まるで、一昔前の、軍をテーマにした恋愛シミュレーションゲームに出てくるような風貌の、今時見なくなった「ヤマトナデシコ」という言葉が似合う天然の美少女が、
邪悪な改造熟女であるガニメデスの前に、その凛とした姿を現した。
「………どうも、ミス・ガニメデスさん」
一見すると、頭のおかしいコスプレ女が、マフィアのシマに殴り込んだかのような絵面である。
だが、彼女は決して、単なるコスプレ女などではない。
本物なのだ。
ガニメデスの牙城に、今まで気付かれる事なく潜入出来た能力も。
ガニメデスの頭上を飛び上がり、取り巻きのマフィア達の動体視力より早く、眼前に着地した身体能力も。
ベルトに指した、日本刀も。
「………月です」
そう、本物なのだ。
彼女「月」は、本物の忍者なのである!
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