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ずどぉっ!
ガニメデスの頭に刀を突き立てようとした月は、突如として後方に吹き飛ばされた。
何が起こったのか一瞬理解できなかったが、次に視界に見えた「巨大な拳」を前に、月は自分が「腕」により吹き飛ばされた事を理解した。
「腕は認めてやろう!だが、貴様が来る事は想定済みだ!切り札はまだあるのよ!オホホホホホッ!」
高笑いするガニメデスの背後で、彼女の「切り札」が立ち上がる。
それにより、スタジアムが崩壊を始めた。
彼女が侍らせていた少年達も、思わず逃げ出そうとする。
だが、その殆んどが逃げ切れず、崩れる瓦礫の中に消えた。
「な、なんだ!?」
「うわあああ!!」
無論、スタジアム内にいた「観客」達も、無事では済まなかった。
逃げ惑い、スタジアムの出口に殺到する。
鎖に繋がれ、逃げる手段を持たない少年達は、その多くが逃げ遅れた「観客」達と運命を共にした。
稼ぎの相手に対して、この扱いはあんまりだと思うだろう。
だがガニメデスからすれば、商品は勿論客ですら「いくらでも換えの効く相手」でしかないのだ。
スタジアムの屋根に逃れた月は、忍者としての経験からか、刀を構えたままだった。
が、いくら忍者でも、その「切り札」刀で立ち向かうにはあまりに強大で、強力過ぎた。
その巨体は、スタジアムの外の、ネオンの舞う街からも見えた。
ガンダリウムγの皮膚と、高性能センサーの目を持った、それは巨人。
母なる地球を守る為に作られながら、仇敵であるジオンの特徴であるモノアイを採用した、連邦の欺瞞と腐敗の、ある意味での象徴。
MS………「モビルスーツ」!
コロニー国家であるジオンが、連邦に対して優勢に立てた理由である、人の形をした巨大なロボット兵器。
様々な戦乱を経て、星の数ほどの機種が生まれたそれは、この宇宙世紀においては最強の兵器として君臨し続けている。
そして、月の前に現れたこのMS。
名を「バーザム」と言うそれは、ティターンズがグリプス戦役後期に主力量産機として開発した機体である。
グリプス戦役後、ティターンズ所属の機体が全て退役を迫られた為に、このように「民間」に流れた機体も少なくない。
だが、ちょっと待ってほしい。
このバーザム、おおよその想像がつくモビルスーツ・バーザムとは、一風異なる姿を見せていた。
そのバーザムは、本来ならダークブルーの部分が、深紅に染められていた。
それだけなら、「レジオン」という組織が運用したバーザムと言えたかも知れない。
最大の違いは、背中から生えた巨大な腕。
ジオンが試作した機体「ヴァルヴァロ」を小型化し、背中に背負ったような姿。
それはまるで、巨大な蟹の怪物のよう。
『この「バケガニ・バーザム」から、逃げられるか!?月ェッ!!』
コックピットのガニメデスが叫ぶ。
同時に、バケガニ・バーザムのコックピットのサイコ・システムが、ガニメデスの脳波に同調し、バケガニ・バーザムはその19.4mの巨体を、月に向けて進撃させた。
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