映画館4

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やはり中には誰も居らず、 前回と同じ席に着くと上映が始まった。 しかし、内容は違った。 実家に戻った美波は再び上京し、 映画館でアルバイトを始めた。 つまり、現在。 前回の過去の映像が前編だとしたら、 これは後編で、 内容は未来の話ということになる。 そのことに気づいた途端、 今までに感じたことのない 恐怖感に襲われる。 これから自分の未来を知ることになる。 それは過去を知るよりよっぽど怖い。 私が観たかったのは、 知られざる家族3人のエピソードだった。 愛してくれた父の存在、美波と呼ぶ母の声。 アルバムをめくるように、 もう一度微笑ましく眺めたかっただけ。 私は出口に向かった。 しかし、扉が開かない。 扉に貼られた文字が 非常口の灯りに照らされている。 "上映中の途中退出はできません" 恐怖感に絶望感が加わっただけであった。 パニック状態になってもおかしくないが、 私はこういう時でも冷静で居られる 人間なのだと初めて知った。 仕方がなく座席に戻ると、 先日の実家の物置まで話が進んでいた。 私はずっと先の未来を知ることに 恐れていたのだが、 この今の状況が映画になるって どういうことだろうか。 現実と映像が交差する瞬間が 刻一刻と近づく。 2回目のシアターZに足を踏み入れた。 私はホラー映画を観るかのように 目を瞑った上から、さらに手で顔を覆う。 人間には何故耳にも蓋をする機能が 付いていないのだろう。 意識を集中させていると、 本当に耳が塞がっているような 気がしてきた。 先程から音が聞こえない。 いや、あまりにも無音すぎる。 手指の僅かな隙間から うっすらスクリーンを見てみると、 鏡のように自分が写っていた。 手を退けると映像も合わせて動く。 そうか、真っ暗なスクリーンに 反射しているのだ。 映画が終わったのだ。 スクリーンの自分と共に出口へ向かった。 しかし、そんな淡い期待は すぐに裏切られた。 やはり扉は開かない。 扉の前で崩れ落ちる。 映画は終わってなんていなかった。 私の人生の終わりこそが この作品の完結なのだ。
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