6.精神世界

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 しっかり抱きしめると、クリスに比べてかなり小柄だ。9歳の女の子だから当たり前かもしれないが、本当にまったく別の人間として派生しているのだな、と気付かされる。腕を解くと、エミリーは嬉しさと不安が入り混じった複雑な表情でルーカスを見上げた。 「フランシスもクロードもお部屋に籠ったきりで……。待っている間すごく心細かったわ」 「そうだよね。遅くなってごめんよ」  ルーカスはエミリーと手を繋ぎながら、リビングルームの中程まで歩みを進めた。部屋は円形で、放射状に6つの扉が並んでいる。その一つ一つにチョコバーぐらいのプレートが付いていて、『失望』や『混乱』といった各人格の特徴ともいうべき文字が記されている。ただ一つ異なるのは、中央にある白い扉だ。プレートはついておらず、取っ手も金色の真鍮製でピカピカで新しいが、幾つも傷や靴跡がついているのは、デイビッドが蹴ったせいだろう。エミリーが話していたフランシスの新しい部屋というわけだ。 『であれば……』  記憶と照合するように部屋の中をぐるりと見渡すと、入り口の扉のすぐ左隣りに『理想』のプレートがついた部屋があった。フランシスの元の部屋だ。中へ入ってみると、左側の壁が無残に崩れ落ちていて、その向こうにクリスの寝室が見える。実際の部屋とまったく同じものだ。フランシスはここから眠っているクリスを外へ連れ出したのだろう。  苦い気持ちで部屋を出てきたルーカスは、真向かいの部屋から向けられる視線に気が付いた。扉が少し開いていて、エミリーよりも更に小さい女の子が遠慮がちに顔を覗かせている。ベラだ。ルーカスは彼女が怖がらないように笑顔で歩み寄り、目線を合わせるためにしゃがみこんだ。 「やあ、ベラ」  柔らかな語り掛けに扉がまた少し開かれる。 「約束どおり、みんなを助けに来たよ」  頷くベラが何かを躊躇っているように感じ、ルーカスは「おいで」と胸を開いた。途端、ベラの唇が涙にゆがみ、身を投げるように飛び込んでくる。その腕にはもちろん人形のデイジーが抱かれていた。
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