6.精神世界

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 左へ進んで右に折れると、あとは真っすぐな一本道になっていた。最奥には両開きの青い扉が見える。その先がリビングルームなのだと、デイビッドが教えてくれた。その途中にも異なる形や色、大きさの扉が並んでいる。 「このいろんな扉は、また別なところへ繋がっているの?」  ルーカスがそう問うと、デイビッドは苦笑しながら肩をすくめた。 「一応全部検めてみたけど、入らないほうがいいぜ。さっき試しに入ってみたら、頭がこんがらがって、どこから入ったのかわからなくなっちまって、やっと出てきたんだから」  意味が分からずに首を傾げたルーカスに、デイビッドは一番近くにあった赤い扉を開いて見せた。部屋の中には上にも下にもかなり広く、天地を無視した階段と通路が縦横無尽に設けられており、入り口と同じ赤い扉が幾つもある。まるでエッシャーのだまし絵そのものだ。 「な? こんがらがるだろ?」  確かにデイビッドの言うとおりだ。精神世界は物質世界とは異なる。ただでさえ不安定で危うい。その隅々までクリスの意識が行き渡っているとは考えにくく、このあべこべな空間は、まさしくその残滓が創り出したものに思えた。 「そうだね。先を急ごう」  もしルーカスが一人でやってきていたら、これらの扉ひとつひとつを開けて確かめていたに違いない。デイビッドのおかげで時間と無駄を省くことが出来たのはありがたかった。  ほどなくして二人は突き当りの青い扉まで行き着いた。すぐにデイビッドが独特のリズムをつけてノックする。彼だと判るようにだろう。すぐに中からパタパタという足音と鍵を開ける音が聞こえた。 「ブラナーさん! 来てくれたのね!」  扉が開くと同時に栗色の髪をした少女が勢いよく抱き着いてくる。その人懐っこさと胸元で揺れる十字架のペンダントがエミリーであることを示していた。
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