6.精神世界

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 小さな体から恐れと不安がひしひしと伝わってくる。他の人格が生まれるまでは、一人きりでそれに耐えていたのだと思うと、ルーカスは居た堪れない気持ちになった。 「感動のご対面も結構だが、さっさとやることやっちまわねぇと。ここはどんどん不安定になってきてる。いつどこがどう変わるか分からねぇぞ」  確かにデイビッドの言うとおりだ。ルーカスはベラを連れて部屋の中央まで立ち戻った。 「俺がここへ来るまでのことを教えてほしい。クロードとフランシスは一度でも部屋から出てきたりした?」  その問いにデイビッドとエミリーは一様に肩をすくめて見せる。 「見てねぇな」 「私も。デイビッドがブラナーさんを探しに行った後も、出て来ていないと思う。私はずっとお部屋の中にいたけれど、ドアが開いたような音はしなかったわ」  二人の言い分に頷いたところで、握られていたベラの手にギュッと力がこもった。何か言いたいことがあるのだろう。察したルーカスが促すと、彼女は自信なさげに「もしかすると」とつぶやいた。 「天使は来たかもしれない。ドアに鍵がかかっていても、自由に出入りできるの。それに羽根で宙に浮いているから足音はしない」  それが本当ならば実に厄介だと、ルーカスは心の内で唸った。精神世界では伝承の天使らしく神出鬼没が可能というわけだ。 「教えてくれてありがとう、ベラ。……ところで、クリスはどこへ行ってしまったんだろう? ここは彼の精神世界なのだから、必ずどこかにいるはずだと思うんだけれど……みんなはどう思う?」  その問いに三人がほぼ同時に頷く。譲り合うような視線を交わしたのち、エミリーが口火を切った。 「以前のように存在を感じるから、どこかにはいると思う。クロードかフランシスなら居場所が分かるかもしれない」  この混乱を引き起こした張本人と、片やすべての痛みを引き受ける者。クリスを救い出すためには、すべての人格と相まみえる必要がありそうだ。
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