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小さな体から恐れと不安がひしひしと伝わってくる。他の人格が生まれるまでは、一人きりでそれに耐えていたのだと思うと、ルーカスは居た堪れない気持ちになった。
「感動のご対面も結構だが、さっさとやることやっちまわねぇと。ここはどんどん不安定になってきてる。いつどこがどう変わるか分からねぇぞ」
確かにデイビッドの言うとおりだ。ルーカスはベラを連れて部屋の中央まで立ち戻った。
「俺がここへ来るまでのことを教えてほしい。クロードとフランシスは一度でも部屋から出てきたりした?」
その問いにデイビッドとエミリーは一様に肩をすくめて見せる。
「見てねぇな」
「私も。デイビッドがブラナーさんを探しに行った後も、出て来ていないと思う。私はずっとお部屋の中にいたけれど、ドアが開いたような音はしなかったわ」
二人の言い分に頷いたところで、握られていたベラの手にギュッと力がこもった。何か言いたいことがあるのだろう。察したルーカスが促すと、彼女は自信なさげに「もしかすると」とつぶやいた。
「天使は来たかもしれない。ドアに鍵がかかっていても、自由に出入りできるの。それに羽根で宙に浮いているから足音はしない」
それが本当ならば実に厄介だと、ルーカスは心の内で唸った。精神世界では伝承の天使らしく神出鬼没が可能というわけだ。
「教えてくれてありがとう、ベラ。……ところで、クリスはどこへ行ってしまったんだろう? ここは彼の精神世界なのだから、必ずどこかにいるはずだと思うんだけれど……みんなはどう思う?」
その問いに三人がほぼ同時に頷く。譲り合うような視線を交わしたのち、エミリーが口火を切った。
「以前のように存在を感じるから、どこかにはいると思う。クロードかフランシスなら居場所が分かるかもしれない」
この混乱を引き起こした張本人と、片やすべての痛みを引き受ける者。クリスを救い出すためには、すべての人格と相まみえる必要がありそうだ。
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