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この男は顔色まで変えられるのか。超演技派俳優か。全然、省エネじゃない。
草食系か、はたまた絶食系かってところだったのに、どう見ても肉食獣。しなやかで豹か何かじゃないかって感じ。ネコはネコでもネコ科のやばいやつ。
「英音って呼んで」
国生君を寝かせるはずだったのに、私が軽々運ばれて跨がられて今に至る。コートもジャケットも脱がされてしまった。
私を見下ろす国生君は野生を忘れた飼い猫じゃない。肉食獣そのもの。
だから、それはお願いじゃなくて、きっと命令。
元々先輩としてはなめられてると思ってたけど、完全に立場逆転的な。
「ほら、早く」
急かしてくる国生君の色気のハンパない……若い子怖い。
ネクタイを外す仕草とかうっかり見とれちゃう。そうしたら国生君と目が合ってしまった。
「何? 縛られたいの?」
「まさか!」
イケメンだから萌え仕草がハマりすぎて卑怯だと思っただけで特殊な性癖はない。大した経験もないけど、至ってノーマルだと胸を張って言える。
「だったら呼んでよ」
簡単でしょ? って国生君が笑う。多分、国生君的に言うとその方が字数は少ない。
呼んだら負けだって感じるのに、呼んだところでこの状況から逃げられるとも思えないのに。
猫ちゃんをお家に返してあげるくらいのつもりが猛獣の巣に誘い込まれてた。
「あやと、くん……」
「呼び捨てでいいのに」
国生君はちょっと不満そうだったけど、後輩だからって何だか気が引けた。
だって、私たちはそういう親しい間柄じゃない。ただの先輩と後輩だったはずなのに、国生君は何を考えてるんだろう。
「呼んだから……もうふざけるのはやめて」
先輩だからちゃんと言わなきゃってそう思ったけど、国生君の目つきが鋭くなった気がした。何これ、怖い。
「ふざける? まさか。本気だけど」
本気なら尚更質が悪いわ! と思ったけど……圧倒されて言えないとか、私、先輩として情けなさすぎない?
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