58人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
過不及無く、人当たりは良く。
波風立てず、良い人で在る。
だから仕方の無いことだった。
近い人にも遠い人にも、笑顔としか認識されないことくらい。
一時の悦楽の為に、お互いが合わない趣味や気分を繋ぎ合わせて、会話を作ることすら。望んでそう進んでいるのだから、後は勉学に励むだけなのだ。
決して裕福では無い家庭に、それでも尚育ててくれた親の為に、垣間見える期待に応えなければならない。
俺にとっての、当たり前だから。
そんな現実を、甘く溶かす存在。
――俺は、恋をしている。
その相手は、一年前にクラスメイトとなり、気付けばいつも隣に居る存在となっていた。
純粋で単純で、子供らしい性格をしている。笑った顔が可愛くて、俺より小さい。
同性なのだけれど。
前に習って、暫く友達、そんな関係だと思っていた。
でも俺は、今更になって、この感情が恋愛感情だと認めてしまった。
昔付き合っていた女子に抱いていた想いとはまた違ったモノで、守りたいだとか、抱き締めたいだとか、そんな安易な熱情では無い。
形容しがたい、沸き上がるモノだった。
自分でも恐怖を覚えてはいたものの、幾度となく恋をしてきた時と同じく、好意を消すことなど出来ない。
引っ掛かるものは山ほどあれど、同性という事実が心に刺さっている。
だから俺は、あくまでも仲の良い知人として、アイツと触れ合って日々を過ごす。
アイツは俺の笑顔ではなく、俺の事を見てくれている気がする。そう思うのも、俺の都合の良い錯覚だろうか。
最初のコメントを投稿しよう!