庇護室

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 ふとした柔和な重みが染み込んで離してくれない。心地よく沈む布団を悪し様に受け入れて、眠ってしまっていた。  頭が回らなくても分かる。至福の一時だ。  しかし、真っ暗な視界に飛び込んできたのは残念ながら休日の合図ではない。コンコンと様子を探る音である。  今が朝でないことを片隅に期待して、続きを待った。 「×××、きょう朝練ないの?お母さんもう行くね」  寝起きは不便だ。声も出せず憂悶としているうちに、母親は下に降りて行ってしまった。が、今日は朝練もない。小一時間は眠れると思えば、寧ろ過分な幸せである。  枕と肌に挟み込まれた髪の毛がチクチクと痒み、反射的に寝返りを打った。  その時、昨夜の出来事が明瞭になり始める。  あの感覚が手から再熱するように、速やかに悪心を催し、まさか吐いたりしないよなと念の為起き上がった。カーテンは閉まったままで、この暗さが妙にあの部屋を意識させる。  色鮮やかで、心を映す鏡のように幼稚さが漂う部屋。そのいたずらな雰囲気が恐怖を煽る。部屋の狭さだってそうだ。  救いがあるとすれば、良い具合に物が散乱しているところ。  俺は顔を背けて、自分の足で山ができた布団に目をやった。布団と擦れるときのさらさらとした感覚が心地よい。    禁忌を犯した罰か、背中にそれが乗っかっているような重み。    起きていても得はしないだろう。  勢いに任せて、また布団に潜った。考え事をしている時間が無駄だと思ったから、それさえ効率化してしまうから。  目蓋を休ませたところで、睡眠前の妄想に耽る。  昨日の衝撃が溶け合い、俺の頭には、あの部屋と共にアイツの顔が浮かんできた。笑顔、すねている顔、泣いている顔……。  しかし、表情のルーレットが止まった時、はっきりと映ったのは見たこともないアイツの顔だった。  俺のほうを向いて、怯えて、許しを請う表情。  
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