庇護室

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 今日もまた、春先の暖かな日。  俺達の通っている学校は、学科の人数の関係でクラス替えが無いから、卒業するまでアイツとずっと同じ教室に居られるのだった。  廊下から近い席で、部活仲間と話し終わると、必ず俺の所へとやって来てくれる。  その華奢な腕で、ノートを抱えて駆け寄って来た。  何か教えて欲しいことでもあるのだろうか。   「×××、課題提出日って今日だっけ」  透き通っているわけでも、特別美しいこともないその声。声変わりはしているはずだけれど、少し高く聞こえるような、陽気な喋り方をする。  それすらも愛情材料になってしまうほど、恋焦がれてしまっているみたいだ。   「今日だよ。お前やってないの?」 「やってない」  無邪気に照れ笑いを向けてくる。  ヤケにニヤニヤしていたのもそれか。 「ダメじゃん、俺の写す?」 「おお、ちょっと写さして」   あと席も貸して、とお願いされれば、断れるはずもなく。寧ろ大歓迎だと、俺の椅子に座らせた。  それ以前に、頼ってもらえた事実がペタリと貼り付いた。珍しいことではないが、当の然というには勿体ない高揚感だ。  熱心に書き込んでいる姿を見ていると、つい頭を撫でたくなってしまう。  触りたい、熱を感じていたいという思いも嵩を増していくばかり。  男同士のじゃれあい。  長い間慣れなかったが、コイツとはもっと、否、コイツとだけずっと――。 「ねーねー×××、ここ意味分かんないから教えてー」 「……ん、どこだろ」    今日もまた、どうにかなりそうだ。  
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