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何もかもを押し殺すことは慣れているはずなのに、どうしてだろう。
嬉しさの波が漏れ出してしまう自分が恥ずかしい。
口角は上がっていないだろうか、無意識に口走ることもないだろうか。男が好きだなんて相手は考えもしないだろうが、視線が合う度に、悟られているのではないかと焦燥感に駆られてしまう。
きっと俺は、バレたらお終いだと思っているんだ。
「それ、こっちの問題と同じ。公式当てはめてみ」
課題提出が終着点なのに、詳細を求めてくるところもまあ可愛い。普段サボり癖が目立つだけで、コイツの読解力は凄いものである。
「……ホントだ。×××天才だね」
「だろ?」
冗談とはにかんでみせると、つられるように笑ってくれた。
ふと、周囲に意識が向く。
序でに焦点も動けば、会話の途切れ間にこちらを見ている人達が少数見受けられた。騒然さの絶えない教室でも、一人一人の声が耳へと運ばれている。
俺はコイツと、普段から仲が良い人物として認識されているのだろうか。
だったらもっと、見せつけたい。
俺のモノ、ではないのだけれど、勝手でもいいからそんな証明が欲しい。
友人だろうが教師だろうが、他人がコイツにベタベタと触っているのを見ると胸騒ぎがする。
この感情が嫉妬、独占欲だとは十分承知済みだ。
逆に誰も居ない、二人きりの空間に居られたならとも思う。
「ヤベえわ、時間なくなってきた」
そうすれば、こんなに可愛いコイツをずっと独り占め出来る。
「そろそろ席戻んないとだからさ、×××ノート借りていっていい?」
そうすれば、コイツは俺のことだけをずっと見ていてくれる。
「×××?」
本当にそうだろうか。
「いいよ」
俺がノートに手を伸ばすと、偶然手と手がぶつかってしまった。お互い反射的に腕を引いてしまう。
「ありがと」
「おう」
温かい感触が、残ったまま。
人の波にのまれていくアイツの背中を、ただ淡々と眺め続けていた。
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