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しかし、この図体では背を丸めても窮屈極まりない。段差が大きく余白があるのが幸いか。
一歩足を着くだけで、ミシ、と不安を煽る音で喋られる。
端の方には所々穴が空いていた。変な生き物でも住んでいそうで、軽装な自分を無意味にも恨む。
黒一色でも分かる程、埃の蔓延る天井から無理に目を背け、性に合わないが下を向いて降り続けた。情け無い背中が嫌いだったから、決まって少し上を向いていたのに。
胸を張って、上へ落ちたいと何度願ったか。
寒気に襲われながらも、目が慣れる頃には行き止まりが見えていた。
――正確には、錆びついた扉。
劣化した鉄の生臭さが鼻を劈く。軽い吐き気に襲われながらも、自棄になって取手に手を伸ばした。
冷たさに加えてザラザラとした感触が掌を伝う。しかし、奥に押しても中々動く様子が無い。体重をかけ、終いには全身を使って体当たりし始めた。
角の方が変形しているのだろう、金属同士の擦れる音が耳までをも刺激してくる。
「いっ……」
力任せに何度押した時だろうか、思い切り扉が開いたのだ。当然予測なんてしていなかった訳で、俺は拍子抜けしてしまった。
開いた衝撃で痛みを伴う。
が、取り憑いていた何かが去ったように、少し冷静になる。
手に入れて終わりじゃない。
未だ灯一つ無いが、壁沿いに手を滑らせた時、その流れを止められる感覚があった。この出っ張りは電気のスイッチだろう。
やっと俺に追いついた恐怖心と背徳感が、それを頑なに拒否する。
余計力がこもり、俺の手は動いてしまった。
――カチッ。
視界を奪う程白に染まった世界。
何もかもが見える状況に、俺は只々立ち尽くしていた。
俺が俺の心を、叩いてしまった。
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